みじかいの | ナノ

「なまえっ
今日なんの日か知ってっか!」


「ナツ・・・っ」


ナツのこの言葉になまえは体をびくつかせた。
知ってるもなにも今日はバレンタインだもの。
女の子にとっては一大イベント。
忘れるわけないじゃない。
・・・だけど。

料理下手のくせに手作り、なんて難易度高いことしようと思ったせいか、失敗。
一応ラッピングして持ってきてる。
きてるけどこんなの絶対渡せない!!
ナツの方へ視線を向ければ案の定期待しまくりの顔をして、目をキラキラと光らせているナツの姿とハッピーの姿が。
そんなナツ達から一歩あとずさってしまう。


「なぁ、なぁ!
今年はすげーんだろ!?」

「あい。
いつもは買ってきてたけど今年は手作りだから楽しみにしててってなまえ言ってたよね?」


え、ちょっと待って!
確かに言ったけどそこまで期待されるようなすごくて豪華なもの、作るなんて言ってないよ!
こんだけ期待されていればあの失敗作を渡しづらくなってしまった。
ずいずいと迫ってくるナツとハッピー。
それをひらりと避けてナツ達に背を向けた。


「なまえ?」


「・・・ご、ごめんなさい
ナツ―――!・・とハッピー!!」


「おい、なまえ!?」


謝りながら走り去っていくなまえを唖然とした顔で見つめるナツ。


「なんなんだよ、アイツ」


舌打ちしてふてくされるナツにハッピーは言う。


「ナツ振られちゃったんだよ、なまえに!」


楽しそうに言うハッピーの言葉に石化するナツ。
さらさらと砂と化していった。








「え、嘘っ
じゃあ渡してないの!?」

驚き叫ぶルーシィに小さく頷く。
机に置かれている紙袋を見つめながら呟いた。


「だってあんなに楽しみにしてるナツにこんな失敗作、渡せないよ・・・」


"ルーシィ見てたから知ってるでしょ"、と小さく付け足せばルーシィは焦ったように言葉に詰まる。
ミラもレビィも大事なのは気持ちよ、なんて言うけど恥ずかしくて。
なまえの頭に手が置かれたと思えばせっかくセットした髪をぐしゃぐしゃにされた。
ぐしゃぐしゃにした張本人、グレイを睨む。



「馬鹿か、お前は」



「え?」



「アイツは上手い、不味いよりもなまえが作ったモンが食いたかったんじゃねぇの?」



「・・・・」


グレイの言葉に考え込み、すぐさま立ち上がる。
なんだか迷いが断ち切れた気がした。
紙袋を持ち、走りだす。


「ありがとう!グレイ!
お礼に今度なにか作ってあげるね!」


それを聞いて顔を青ざめる。


「遠慮しとくわ」


そう呟いた時にはなまえはもうその場にはいなくて、グレイは安緒のため息をもらした。

先程ナツ達といた場所へと向かえばまだそこに2人はいた。
ってか、あれからずっと固まっていたのだろうか?
そんなにショックだった?
ナツらしいというか、なんというか。
なまえは微笑み、歩き始める。


「ナツ」


声をかければナツはびくっと肩を揺らした。
なまえだと分かれば笑顔を見せる。
無邪気な子供のような笑顔になまえは顔を赤らめた。


「はい、・・これ」


「え、」


差し出された紙袋となまえを交互に見て目をぱちくりさせるナツ。



「後でお腹壊しても知らないからね」


恥ずかしさのあまりぶっきらぼうに言えばナツに抱きしめられた。



優しい温もり
(もっと抱きしめて)





嬉しそうに包みを開けるナツ。
鼻歌まで歌っちゃってる。どんだけ嬉しいのよ。
走ったせいか中身はぐちゃぐちゃ。
止めたけどナツは美味しそうに食べてくれた。
ふいに重なるナツの唇。
自分の口内に広がるほろ苦いチョコレートの味。
ナツによっていれられたチョコレートは自分の口内で溶けていった。







(な、上手いだろッ)
(―――――・・・!)

暫くナツとは口を聞かないでやった。