「・・あらやだ。」
柳宿はある場所で足を止めた。
「この子ったら、こんなとこで寝ちゃって」
柳宿が目にしたのは気持ちよさそうに自室の前の廊下に転がって寝ているなまえの姿だった。確かに今日はぽかぽかと陽気な天気で。眠ってしまう気持ちも分からなくはない。だが。
「いつ敵陣が攻めてくるか分からないってのに・・相変わらず能天気ねえ」
溜息をつき、ほっぺたをつねってやればなまえは身をよじろぎながらうう、と声を洩らした。それを聞いた柳宿は呆れた顔をしつつも優しく笑う。最近はなにかとばたばたしていて、気もはっていたから疲れているのだろう。
「ほんとなら起こすんだけど今日は特別よ」
なまえの柔らかな長い髪の毛をそっと掬い、ちゅっと軽く口づけた。柳宿の鼻を擽る甘い花のような匂い。いつも知ってるなまえの香り。
だけどいつもと少し違うのはそれにどきどきしてる、ってこと。
柳宿の手が頬を撫でて、顔にかかってる邪魔な髪の毛をどかせばなまえの寝顔が露になった。なまえの唇に軽く触れる。思っていたよりも感触が生々しい。すーすーと規則正しい寝息を聞けば、それと自分の心臓のばくばくいう音と重なりあった気がした。
「・・なにしてんのかしらあたし・・」
仕事に戻ろう、そう立とうとしたとき。先程まで寝ていた筈のなまえと目が合う。本人は口をおっきく開け、なにかを喋りたいけどぱく、ぱく、と空気しかでない。顔はまっかっか。その反応に柳宿は固まってしまった。
「柳宿・・!いっいま・・!」
「起きてるなんてずるいわよ」
「・・っ!ずるいのは柳宿じゃんかあ!」
べしっと頭を叩き、その場から立ち去る。その後ろ姿を眺めてるしかできなかった。
「痛いわね!なんであたしが叩かれなきゃならないのよ!」
そう叫んだときはなまえの姿は見えなくなってた。
おおきな溜息が口から漏れる。柳宿は頭を抱えた。
(なんであんなことしちゃったのかしら・・)
(柳宿があんなことするなんて・・自惚れちゃうじゃん!)
私は彼が好き。だから起きても気づかないフリしてた。
だけどそんなこと言えるはずがない。
でも私も前に今の君と同じことをしたのは
君にはナイショ
(12/03/15)