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舞のところへ通うようになった俺は、誰かに目撃されたらしく予告状がない日でもキッドが現れるようになったと、すぐ噂が広がった。


「ちょっとー
聞いてるの?快斗!」

「へ?・・あ、ああ
聞いてるよ」


ぼーっとしてれば突然青子が声をかけてきた。
もちろんでまかせ言ったなんてバレたら殴られるのだろう。
だが青子はそんなことなくまた話はじめた。


「キッドの話!聞いた!?」

「ああ、予告状もなしに出没してるって話だろ」

「そうなのよ!
しかもキッドのやつ毎回手に持ってるものが違くって、」

「へ、へ〜・・」


そんなとこまで目撃されてたのか。
暗いから持ってるものなんか分からないと思ってた


「それが変なのよ」

「オイ、変ってなんだ」

「快斗じゃないわよ!
キッドが持ってたの最初は花なんだけど後はぬいぐるみやお菓子に絵本・・
子供が喜びそうなものばっかり!
ね?変だし、あまりにキッドが持ってるには似つかわしくなくて鳥肌たっちゃったわよ」

言いたい放題。
本人を目の前に言ってくれるよな。
まあ、知らないから仕方がないのだけど。
反応がない俺に不思議がられたけど、タイミングよく始業ベルがなってくれた。
あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。
柄にもないことをしてしまってるのは分かってる。
だけど舞の太陽みたいな笑顔が見たくて。

だからこんなに必死になって、満月の日じゃなくても、寝不足になってでも、

今日は少し早めにベランダへと降りたった。
舞はこっちに気がつき、ひらひらと手をふる
俺はキッド仕様スマイルをむけた。
そしたら舞はすぐさま顔を俯かせたから心配になり大きな窓を音をたてないよう、ゆっくりと開けた。
足音もたてず器用に舞の方へ歩み寄る。


「プレゼント、です」

「わあ・・っ
造花の花ですね?
これなら枯れないです
ありがとう、怪盗さん!」

笑顔は、花よりも綺麗だと思ってしまった。
純粋で無垢な可憐な少女
こんな幼い少女にあんな残酷な仕打ち、心底憎い。
よくなるよう祈ってるよ、と言ったら
彼女は神様なんて信じてませんから、 そう言った。
祈る=神様

彼女の中ではそう浮かびあがったのだろう。
続けてこう言った。

「お母さまはこの病がわかってから毎日のようにお祈りしてらっしゃいます。
でもお母さまの方がわたしよりも日に日に弱くなる一方で・・」

だから、と。
えへへと小さく笑った。

「あなたは・・とても優しいんですね
優しすぎる」

「わたし、誰かが傷ついたり苦しんだりする姿、見たくないんです
せめて周りのみなさんは幸せであってほしい
・・・怪盗さんにもです」

柔らかく、微笑んで
彼女は俺の体に手をまわし、優しく抱きしめる。
いきなりの行為に体を硬直させた。


「あまり、顔色がよくありません・・
私が原因ですよ、ね
毎日来なくても「しっ・・」」


キッドの指で唇を塞がれた

「お喋りなお嬢さんだ」

「・・あう、
いつもは口下手で引っ込み思案、なんですけど・・」


あまりの近さの距離に心臓がどきどき、ってなった
顔に一気に熱が集中して。
きっと顔は真っ赤かはずなのに視線がそらせないでいる。
これもなにかのマジックか
いや、そんなはずない。

それでもそらさずに見ていたい、と思うのはなぜなのか。


「・・今日は調子がいいのだから、ね、」


「はい、約束でしたね
では今日はどの絵本を?」

「人魚姫」

「かしこまりました
では、・・ベッドの中へ」


普段より、低いキッドの声
それは喋るときより優しく、あったかい。
暫く聞いていればうとうと、睡魔が襲ってくる。
必死になって瞼を開けてようとする姿にキッドはバレないよう笑みをこぼした。
安心しながら夢の世界へと旅立つ彼女に、読みかけてた本をとじて頬にキスを一つ
すーすー、と規則正しい寝息だけが聞こえて。



「よい夢を」