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病院へ移り、寝たきりの生活になってしまった彼女。
呼吸器をはなせない状態で病状は悪化していた。

苦しむ痛々しい彼女を見たくなくて、彼女の母親の言葉の通り俺は彼女のもとへ行くことはなかった。

結局自分は逃げただけだと
必死で戦ってる彼女とは違い、立ち向かう勇気がないのは自分だと。

思い知らされた。

学校でも彼女のことが忘れられなくて授業にまったく身がはいらない。
青子との夫婦漫才みたいだと言われた喧嘩も、些細な友達とのやりとりも、今の自分には何一つ無の世界だった。
そんな俺を青子やクラスメイトは心配してくれた。
、がそれすらも気がつかない俺は相当やばかったのかもしれない。


「・・快斗、無理しないでね・・」


青子の言葉が聞こえた。
虚ろな目を上へむければ青子はそこにいなくて、先生が来たから授業がいつも通りはじまろうとしていた。
空はあんなに綺麗なのに自分の心にはぽっかり穴があいたみたいだ。

普通。いつも通り。
変わらないのになんだか嫌気がさして、吐き気がした

(普通 ? いつも通り ? )

授業に身がまったくはいらなくて教科書で隠しながらこっそり携帯を開いた。
耳にイヤホンをし、テレビをつける。

ニュースを流し見する。
暫く見ていれば久しぶりに見た彼女の母親。
胸が痛む。チャンネルを変えようかと思ったとき


「見てるかしら?
怪盗キッドさん」

「へ・・?」


いきなり名前を呼ばれて間抜けな表情と声。
母親は涙をながしながら口をひらいた。


「舞さんは昨日息を引き取りました」

「・・・・・!」


やっぱり消せばよかった
こんなこと聞きたいためにテレビをつけたわけじゃない。


「舞さんは安らかに眠りました
これはあなたのおかげなのかしらね
舞さんがあなたのために書いた手紙が病院の机の引き出しから見つかりました
渡したくても住所が分からないからだせないでいるわ
テレビ局の方に無理言ってお願いをしました。
もし見てるならこれを、舞さんの部屋のベッドへおいておきますから・・舞さんのためにも読んであげてください」

「・・・・・・」


ここで映像は途切れた。

いや、無意識のうちに自分で消してたのだ。

手紙。彼女からの。
ずっと会いにいってなかったのに。

そんなこといくらでも思うくせに身体は正直で。

夜、部屋へと素直に向かった。

テレビで言ってたとおり、手紙はあった。

かさり、震える手つきで開封する。
可愛らしい便箋に可愛らしい文字。
なんて彼女らしい。


"怪盗さんお元気ですか?
えへへ、私は元気ですよ!
って言っても怪盗さんが手紙を読むころにはどうなってるか分かりませんが・・
あの夜はびっくりさせてしまってごめんなさい。

それにしても、最近怪盗さんが来てくれないからつまんないです。
あれからマジックの練習もこっそりしてるんですよ!
あ、内緒だったのに・・
聞かなかったフリしてくださいね(笑)

私怪盗さんにすごく感謝してるんです。
なにも知らなかった私にいろいろな世界を見せてくれた。
最後は私の我が儘で困らせてしまってごめんなさい。
私がいなくなっても自分のせいだとか思わないでくださいね?
これは約束、です。

あと手紙と同封したMDは怪盗さんのためにつくったオリジナル曲です。
元気がないときに聞いてくださいね!
きっと元気になりますよ

あと・・

元気になれそうにないのでずるいかもしれませんが手紙で伝えます。

いま、言わせてください

ずっとあなたが好きでした

怪盗さんの幸せを祈って
舞"



「・・っ、ふ・・う・・」

手紙を読み終えた俺の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
封筒には言うとおりMDがはいっていて。
彼女らしい優しくて安心するメロディだった。
胸にすとーん、とまっすぐにはいってくる彼女特有のソプラノ声。
久しぶりに聞いた彼女の声に
さらに俺の顔はぐしゃぐしゃになった。
文字も景色もなにひとつ歪んで見えない。
声をころし、泣き続けた。

俺は彼女に少しでもなにかしてやれたんだろうか?

少しでも彼女の願いを叶えてやれたんだろうか?


「・・すき だ、好きなんだ・・!・・舞・・!」


もう二度と届くことはない想いだけど。





ラブソングはあなたに届きましたか?


end...