死にたがりの彼女 | ナノ
2023年長野で起きた中学生大量殺人は唯一生存した少年少女への死刑判決で幕を閉じたのだった。


――デッドマンワンダーランド食堂エリア――


『やっぱ男の人が多いなあ・・
ガンタどこだろ
一緒に食べようと思ったのに』


きょろきょろと周りを見渡せばガンタを発見した。
見たところ女の子と一緒だった。


『あれ・・
アザミ?』


「アリス!」


名前で呼び合う2人にガンタは頭に?マークが浮かびあがる。


「え!?
おまえら知り合い・・!?」


『うん
御堂アザミさん
同室なの』


「へー・・
・・同室」


ちらり、とアザミの方を見る。
アリスが来る前散々嫌みたらしいことを言ってたのにまるで人が変わったようだ。
笑顔、笑顔、笑顔。


『ところでガンタ、それがご飯なの?』


ガンタの配給食に指差す。
アリスの言葉で思いだした。
嫌みたらしく言われた原因がこれだったと。


『やっぱりガンタもCPがないんだ』


「アリスも?」


『だからガンタと同じだね』


にっこり微笑む。
そんな2人を見てアザミは1つため息をはいた。


「アリス
これあげる」


『え・・?』


「食べないともたないわよ」


渡されたサンドイッチ。
だがアリスは首を横に振り、サンドイッチを受け取らない。


『ありがとう
でも私だけ食べたんじゃガンタが可哀想だし・・
ガンタと半分こするよ』


「・・仕方ないわね
もう1つ買ってあげるからそれも食べなさいよ」


『いいの!?』


「なんだよ
さっきビンボー暮らしだって言ってた・・ぐふっ」


アザミの肘が見事ガンタの脇腹に命中する。
笑顔のアザミにアリスは苦笑い。


(アザミは怖い)


席へ行こうとするガンタを見ながらアリスはふと思った疑問を問い掛けた



『そうだガンタ
ルールブックは読んだ?』

「ルールブック?」


知らない素振りを見せるガンタ。
アリスの胸がどくっと脈うった。


「ああ、・・そんなものあったよな
それよりさ、アリス」


ぱん!
次の瞬間、アリスがガンタの頬をひっぱたいてたははは、と笑ってたガンタの表情は一瞬で驚いたものに変わり、目を見開かせた

『・・・っ!
なにへらへら笑ってんの?
しんっじ、らんない・・!』


「・・は?
ちょ、なにすんだよイキナリ!
信じらんないのはそっちだろ!!」


これはマジで痛かった。
本気で殴ったのが痛みと赤く腫れあがることで証明してくれた。


『なに、って
ほんとに知らないの・・?』


「・・いきなり殴られるなんて予想外だったんですけど」


『じゃあほんとにルールブック読んでない?
もしかしてキャンディまだ食べてないとか言わないわよね!?』

「ルールブック・・?キャンデ「ああ、・・・っもう!!」」


苛立つ幼なじみの声は鬼のようで。
なにやらメモらしきものをポッケからとりだした。
拳のなかにはいってるメモ用紙。
ぼす!
普通に渡されずガンタの胸にひと突き。
しかたなくガンタは受け取った。


「それならドッグレースショウにでれば?
あれ確かまだエントリー受け付けてたハズだから
賞金でるし、私もでるし」


『アザミがでるならでようかな・・
でも優勝は無理そう』


「参加賞でアンパンでるみたいよ」


『・・でる!』


「は!?アリス?!」

『ね!でよう!
ガンタ!
優勝する勢いでCP稼いでガンタのぶんのキャンディ買わなきゃ!』


「アリスがアンパン食べたいだけじゃんか」


ぐっ!と胸のまえで両手の拳を握って言うアリスに頭が痛くなった。
そんな簡単な理由でいいんだろうか。
そもそもキャンディ?って?
アリスがくれた紙きれをみれば細かな字でぎっしりとうめつくされていた。
それを読んでみれば一気に自分の身体から血の気がなくなった気がした。


『・・ね?
だからちゃんと読まなきゃいけなかったでしょ?』


「お、れ・・っ
必需品の、なか、になんか・・そんなのどこにも・・っ」


混乱するガンタ。
首にしてる首錠からは常に毒が挿入されている。
だから3日ごとにキャンディを食べないとバッドエンド。
つまり天国か地獄か。
あの世へ直行というわけ。

「・・ごめんね、
ガンタ・・アリス
キャンディ買ってあげたいけど私もそんなお金、ない」


『いいよ、アザミ
気持ちだけで十分・・あ、』


アリスはここでなにかを思いだしたように言葉を止めた。
方向転換をし、食堂からでていく。


「アリス?」


『席でちょっと待ってて!すぐ戻るから!』


「「???」」


すぐにアリスは自室へとかけこむ。
自分のカバンの中身をひっくりかえして、あるものをさがす。

・・ビンゴ


『やっぱりまだ手をつけてなかった!』


ポッケにつっこみ、また食堂へ急いで走った。





『医務室?』


「あれ?アリス途中で会わなかったの?」


例のものをもって食堂へ戻ればなにやらひと騒動あったらしく、ぶちまけられたラーメンを片付けてる人や、机などを元の位置に片付けたりしている。


『もしかして、ガンタ巻き込まれたの?』


アザミは小さく頷いた。


『うへえ
鈍臭いなー、全く』


そう呟きながら再びアザミの方へ視線をおくればなにやら顔を青ざめて身体を小さく震わせていた。
覗きこみ、声をかけてやればびく!と大きく身体を揺らした。


『アザミ?』


「どう、しよう・・
私、あの子に最低だって言っちゃった」


状況をうまくのみこめていないアリスはアザミがなにを言ってるのか分からなかったけど。


『要するにガンタがアザミに失礼なことしたってわけね!』


「え!?ち、ちが・・っ」

『よぉーし!
すぐ医務室へ行ってこらしめてやる!』


「アリス!」


アザミの呼びかけにも答えずアリスはてけてけ〜と駆けていった。



『ガンタ!!』


扉を開ければびっくりした表情で目を丸くした。


「アリス?」


『ガンタ!
アンタねえ・・!ってあれ?
随分酷くやられたんだね』

思ったより酷くて自分が叩いたとこじゃないよね?なんて確認するぐらいだった

「どこ行ってたんだよ」


『ああ!それなんだけど』

ポッケからとりだしたのはキャンディ。


「キャンディ?」


「なんじゃおまえさんもキャンディ食べてなかったのかね?」


おじいちゃんが聞いてきたので笑ってごまかした。
ここのお医者さんみたいだ

『ガンタにあげようと思って』


「・・っ
なに言ってんだよ!
おまえだって食べてないなら死ぬんだぞ!?」


『私はいいよ!
ガンタが死んじゃうぐらいなら私が死んだ方がいい!』


「アリス!!」


『いいから受け取ってよ・・!』


「食べられるわけないだろ!?」


アリスの手からキャンディがおちる。
ころころとベッドの脇に転がっていった。
それを拾いに行けば見知った少年がベッドに寝ていた

『君!』


「やあ」


『ケガ、大丈夫ですか?』

「ああ、なんとかね」


ぐるぐる巻きの包帯を見せられてアリスは痛そうな顔をした。
あんだけざっくり斬られたんだ。
痛いわけがないだろう。


「それより、ごめん
ガンタくんのキャンディはもしかしたら僕がぶつかった時に落しちゃったのかも」


『いいんです
だから私のぶんをあげようとしてるのに・・あのバカが受け取らないから』


ギロっとガンタを睨めば視線を逸らされた。
羊ははは、と渇いた笑いをする。


「ガンタくんとは幼なじみなんだってね」


『はい』


「だったらガンタくんにとっては君は家族で大切な存在・・ガンタくんも君も、どちらも欠けたらいけないんじゃないかな」


『・・いいひとっ!』


「え、」


羊の手を握れば驚いた表情
おちていたキャンディを拾い、ガンタにむかって放り投げた。


「アリス!?」


『それはガンタのね!
自分のぶんはいまからのドッグレースショウで稼いだ賞金で買うから!』


一度言いだしたら止まらない。
国野芽アリスとはそういう人間だ。


「シロもでるー!」


「・・わあっ!?
お化け!?」


いきなり現れたのはシロ。
白くて長い髪がゆらゆら揺れる。
天上から現れたシロはくるん、と床へおりてきた。


「アリス、久しぶりー!」


『久しぶり、だねシロ』


「なんだよ、アリスはシロのこと知ってたのか?」


『忘れっぽいガンタとは違うんですー!!』


「よおーし!
そうと決まればエントリーだっ!」


手袋みたいなものをはめたシロの手がグーをつくる。
元気よくそう言った。


「そうだ。
国野芽、さん・・でいいのかな?
僕は鷹見羊。よろしく」


『アリスでいいよ
羊くんって呼ぶ。
これからよろしく。』



握手をかわす中、ガンタはなぜかおもしろくなさそうなカオをしていたのをアリスは知らない。

こうして見方はお互いだけだと思ってた2人には仲間が増えたことに喜びを感じたのだった。