死にたがりの彼女 | ナノ
『なんで・・!?
私たちじゃないのに!』


いきなりの残酷な現状を信じたくなくて、アリスから発せされる言葉はこれだけだった。
周りにはクラスメイトの家族がいるなか、アリスたちの味方はたった2人。ガンタと自分。
ヤマカツや美々の両親もいた。


『・・・っ
ガンタ・・』


「なんで・・
こんなの、って、」


痛い

自分の胸も、ガンタの涙も、周りのみんなの視線さえも。


『・・美々、のお父さん』

「君たちのことはほんとの家族のように思ってたのに・・」


「だから俺たちはやってないんです!
あの赤い男が・・ぐうっ」

美々のお父さんがガンタを殴った。
床に激しく叩きつけられる
あんなに優しかった人が嘘のように怖い顔で無抵抗のガンタを殴ったり、蹴ったりを繰り返す。


「・・がはっ・・
がぁ・・!!」


『―――や・・!
やめて!ガンタが死んじゃう!!』


アリスは美々のお父さんの腕に飛び付き、制止の言葉をかける。
だが、それさえも聞き入れてもらえなくてアリスの頬をひっぱたく姿がガンタの瞳に映った。


「・・アリス・・!」

『・・う・・』


じんじんと鈍い痛みが頬を襲う。
噛んでしまったのか唇からは少々血がでて口の中で鉄の味がした。


『聞いてください!
私たちはやってません!
さっきガンタが言ったように、あか・・きゃあ!!』


蹴られ、咄嗟に両腕でガードする。
皮がめくれ、色白な肌から血が流れる。

今目の前にいるのは鬼だ
女だからなんて甘くない。容赦なく降り注ぐ暴力にあまりの痛みに喋ることができないでいた。


『お願い・・き、いて・・』


床に這いつくばったアリスの腕に重心をかけ踏みあげればギシギシッと音をたてた。


『うあっ!
・・・あ、あぁ・・っ』


「やめろおおおおお!!」

ガンタが叫んだ時だった。さすがにヤバイと悟ったのか警備の人が美々のお父さんの両脇に手を滑り込ませ動きを封じる。
呼吸を荒くさせ、朦朧とする意識の中でその光景を見てた。
隣でガンタが名前を呼ぶ声がしたけど声がでなかったやっとのこと、擦れ擦れで振り絞ってだした言葉。



『・・もっと、はや、く
止めにきて・・よね・・』

アリスは意識を失った
眠り続けてる知らない間にデッドマンワンダーランドへと連れてこられたみたいで起き上がったのはまた医務室のベッドだった。


「起きたのか?
5509号」


『え・・あ、あの・・』


「起きたならさっさと来い」


『うえ!?
な、んで・・?』
(やだ・・ガンタ!)


女の人に腕を引っ張られ、連れてかれる。
横顔だけだがとても美人だった。


「なにをそんな怯えている
大量殺人を犯した者が」


『違う!
それ、私じゃな――!』


「なんにせよ私に従ってもらう。
5580号にもじき会える」


『!
55、80号・・?』


アリスの頭には?マークが浮かんだ。
なんなんだこの人は。
仕方がないからついていく

『ガンタ!』


「アリス!?」


人に埋もれた中でガンタを発見した。
小さいからすぐに分かったことは内緒にしておこう。

「お前大丈夫か?」


『うん
なんとか大丈夫
ガンタは?』


「俺は全然・・」


「げえっ
アレって長野の大量殺人犯じゃねーか!?」

「2人で手を組んで殺したって噂らしいぜ?」

「マジかよ
あんな大人しそうな顔しといて人は見かけによらねえな」


ガンタと話してればすぐ近くにいた男たちにそう言われて、俯いた。
自分たちはやっていないのにやったと思われてる。
これほど辛いことがあるだろうか。


「新しい囚人の皆さん
私が今日から君たちの世話させていただく
看守長のマキナだ
よろしく」


先ほどの女性が話しだした
ガンタやアリスを一目見たマキナはまた言葉を続ける。


「・・・
知ってる者も多いと思うがここデッドマンワンダーランドは特殊な監獄だ
完全民営化に伴う独自の管理体制や刑務所と拘置所の統合による合理化
東京復興のための観光事業が主な刑務だ」


廊下を歩きつつマキナに説明される。


「君たち囚人のショウやアトラクションの収入で経営している」


『・・バッカみたい』


アリスは誰にも聞こえないよう呟く。
こんなとこ早く出ていってしまいたい。
でも無実にならない限り一生無理なのだろう。


「―――以上、質問は?」

「・・何カップですか?」

「Gだ」


マキナが言えば周りからうおおっと歓声がおこった


『・・だから男子って嫌』

手をクロスさせ、体を覆いながらアリスは身震いした。
でもあの乳は女の私から見ても相当羨ましい。
一体どんな生活をおくればあんな風に育つのだろう


「・・アリス?
そんな怖い顔してどうした?」


『へ!?
・・や、なんでも』


「???」


ガンタを横目で見て、こほんと咳払いした。


『あ、あのさ
ガンタって・・』


「アリスもあれぐらいあったらよかったのにな」

バキイ!

その言葉の瞬間ガンタの左頬にアリスの拳がとんだ。
驚いたのはガンタ本人だけではなく周りもで。


『いってえ・・!
アリス!お前・・』


『ガンタ、サイッテ―!
これでもある方なんだから!
なんなら見せてあげる!』


ジジ――と服のチャックを下ろす姿にガンタは慌てた

「わああっ!」


『なによ?』


「な、なにってお前が・・!」


めちゃくちゃ顔を真っ赤にさせてるガンタ。
半分脱いだ服の隙間からアリスの肌が露出されていた。


『あれれ?
ガンタくん、顔真っ赤!』

それに気づいたアリスがすぐさまからかう。


「いいから着ろよ!」


『だってガンタがバカにするから・・っ』


「だ――!分かった!
バカにして悪かったから服着ろ!」


他の男子の下劣な目線が嫌だったのかしぶしぶ服を整える。ガンタはほっと胸を撫で下ろした。
なぜだか急に笑いが込み上げてくる。


「ぶはっ
・・それにしてもフツーこんなとこでやるか?
お前、バカだろ?」


『笑った!』


「え?」


『よし!
それでこそガンタだ!』


そうにっこり笑うアリスにぽかんとした表情のガンタ。
自分だって辛い筈なのに心配してくれるアリスの優しさにガンタは泣きそうになった。
男の自分がしっかりしなければ。


「もう漫才はいいか?」


多少苛立ってるマキナの声が響く。


『むっ。
漫才ってなに――「す!すませんでした!!」』


なにか言いたそうなアリスの口を塞ぐ。


「話の続きだが、さっき渡した袋に必要最低限の物は入ってる」


ガンタは袋の中身を確かめるのに必死で後ろから迫ってきてる荷台に気がつかなかった。
荷台を押してる彼も荷物が邪魔して見えなかったみたいで見事ぶつかってしまう

「!ごめん
大丈夫?」


「あ、いえ
なんとも・・」


荷物を拾ってもらえばマキナが声をかける


「・・オイ
ぶつかった方
今盗んだものをだせば許す」


「・・え?
いや、あの前がよく見えなくて」


「あの俺もボーッとしててぶつかっただけです」


「・・・
ださないなら償え」


マキナは腰におさめてあった剣を鞘から抜き男の子の胸を切り裂いた。
傍にいたガンタやアリスの頬に血が飛び散る。
洋服が真っ赤に染まり、あまりの痛みに体を痙攣させてる。


「うァ・・あ・・!」


「マキナ看守長やりすぎです!」
「救護班お願いします!」


『なんて酷いこと・・!』

一瞬なにが起こったのか分からなかった。
気がつけば彼が血だらけで倒れていて。


「こんなの狂ってる・・!」


マキナは倒れてる彼の頭を高いヒールで踏みつけた。


『あ・・!』


「狂っていようがいまいが
不条理こそが現実だろうが」

なんて冷たい目。

"連れていけ"


他の警備にそう指示をする

『酷い・・!酷い!!
こんなのってないよお・・・っ』


アリスは連れてかれるガンタを見ながらその場に泣きくずれた。
暫くして、人の気配を感じる。


『・・・?』


「こんなとこでなにしてんのかな?
女のこはあっちだよ
ああ、間違えちゃったのかあ〜」


キツネ目っぽい青年の人はくすくす笑いながらそう言った。
スーツを着てるから偉い人だと思う。
アリスはなにかに気がついた。


『玉・・木、さん?』


見知った者だった。
それもその筈。
あの時の弁護士さん。
この顔、この声。
忘れる筈がなかった。


『・・ッ
なんであなたがここに!?』


「僕、本職がここなものですから
改めて初めまして。
プロモーターの玉木です」

『あな、たがっ
ちゃんと・・弁護してくれてれば・・っ
こんなことにはならなかった・・・っ』


「ん〜・・
それはどうかなあ?
それより僕君に用事があるんですよネ」


『・・なに?
やだ!近寄らないで・・!』


「大人しくしていてくれれば悪いようにはしませんから
どうぞ、こちらです」


部屋へ着き、玉木に突き飛ばされるように部屋の中へ入らされた。
モニタールームのようで。
画面にはガンタの姿が映っていた。
真っ白な女の子も。


『シロ・・?』


ガンタと私の幼なじみのシロだ。
小さい頃はよく一緒に遊んでエースマンごっこをしていた。
あの歌も確かシロが唄ってたのを覚えたんだっけ。
懐かしい記憶が蘇る。


「ガンタくんは死刑の執行も待たずに所内工事現場で落下物により事故死する予定です。」


画面を見ていたアリスだが玉木の言葉に体を向けた。
この人の頭の中は大丈夫かと疑いたくなった。
さっきから嫌な汗が額から頬にながれる。
少し体が震えているのが分かった。


『な・・に、考えて・・』

「あははははは」


『なにが可笑しいのッ!?』


「その顔・・実にイイですよぉ・・
君たちは運がいい
『原罪』の『罪の枝』を見て生き残ったんですから」

玉木の笑い声にあわせて机に置かれてる機械の花の置物が動く。
一緒に笑ってるみたいに。

「ガンタくんの進路は2つ
ぺっちゃんこになって死ぬか・・
僕の玩具になるか」


『ガンタはどっちもならない!
ガンタは死なないよ!』


「君は随分とガンタくんにご執心のようだ」


『アンタに関係ない!』


「口の聞き方には気をつけた方がいいですよ?
でなきゃ今から君にすることに手加減してあげれませんからねえ・・」


この時、人の笑顔はこれほど恐ろしいのかと思った。

『やだっ・・!
なにすんの!?』


「ちょーっと体を調べさせていただくだけですよぉ

『原罪』にうたれた部分はここですか?」


『・・・ッ』


玉木の手がアリスの体を弄ぶ。
座らされた椅子から変な機械が体中につけられ、身動きがとれない。
そこから奔った鈍い痛み。

『ぎ・・!?
う゛ああああ・・!!』


びくびくと体が揺れて、鈍い痛みから激痛へと変わっていった。
電流が流れてくる、そんな感覚に似ている。


「ん〜
か・い・か・ん・
ですねえ〜」


『変・・態・・!』


この痛みから逃れられない
痛い。痛い。


「た、玉木プロモーター!
これ以上は・・っ」


意識を失ったアリスの体からなにかが渦巻いてる
胸には半分の赤いガラス。

「やっぱり・・!
彼女は・・!」


玉木がそう呟いた瞬間爆発がおこった。
振動で激しく揺れる。
そしてこの爆発がおこった同時刻。
ガンタのとこでも爆発がおこったという。
ガンタもシロも無事だった
だが、この2つの爆発

ガンタとアリスの命をかけたショウのはじまりだった。





「・・彼女は『不死鳥(フェニックス)』だ」