死にたがりの彼女 | ナノ
「お前いつもその歌
唄ってるんだな」


私の幼なじみの五十嵐ガンタはそう言葉だけ告げて視線を斜め上にずらして私を見た。
あまりにも唐突な言葉に目をきょとんとさせる。


『・・なに言って、
まさかガンタ覚えてないの?』


「なに言って、はそっちだろ」


視線をもとあった場所に戻し、携帯を再度弄りだした
そんなガンタの態度にふてくされた顔をする。
一発頭にチョップをくらわせればガンタは小さな悲鳴をあげた。


「ガンタ!アリス!
なにしてんの?」


美々がお弁当を持ちながら声をかけてこっちへ歩いてくる。
・・と、そこでタイミングよくアリスのお腹が鳴った。


『そっか。
もうお昼なのか。』


「?そうだよ?
アリスは食べないの?」


『食べる!食べる!』


急いで自分の席にお弁当をとりに戻り、またガンタの席へ戻る。
アリスは美々の隣の席へ腰掛けた。


「で?
2人でなんの話してたのカナー?」


にやにやしながら聞いてくる美々に顔が赤くなった。
ガンタとアリス、2人して慌てる。


『べっ別に・・!
そんなたいした話じゃないよ!』


「そ!そうだ!
俺等は別に・・っ」


「怪しーい」


「『美々!!』」


怒鳴ったときだった。
携帯の音楽に反応する。


『なに?
ガンタの携帯?』


「ああ、今度の修学旅行先見てたんだ。
ショボそうだなって思ってさ」


修学旅行先は刑務所観光だ
今どきそんな場所選ぶのはどうなの、って思う。


「でもガンタやアリスは疎開組じゃん
昔東京に住んでたなら懐かしいかもよ」


『10年も前だよ』


「覚えてるわけねえし、家が残ってるワケでもないしな」


そう言ってガンタはスイッチを押して画面を消した。
そこへ親友のヤマカツ(あだ名)がやって来る。


「なんだよ、ガンタ
携帯にまでそのマーク書いてるのか?」


指差したのはガンタの携帯の裏側。
本人曰く丸太のマーク
どっちかって言うと切り株に見えて仕方がない。


「中2にもなって自分のもん全部マーク書くってどうよ」


「これ書かねえとオヤジにアイス盗られんだって!」

美々は呆れたため息を吐く


「子供っぽいなー
どっちも」


「そんなんだから背も伸びねえんだぞー」


『そう言えばガンタって昔もおじさんにアイスだのプリンだの食べられたーって泣きべそかきながらウチに来て一緒におやつ食べたっけ?』


あはははーと3人で笑えばガンタは怒りを爆発させた


「おまえらなァ」


『ほんとのことじゃん!』

「・・まあ
修学旅行先なんてどこでもいいよね」


「いや、やっぱ海外じゃね?」


『ヤマカツと同意見
・・だけどもうすぐ受験だからその前に友達と遊べればどこでも一緒だよね』


「まあ、そうだけどよ
いつも通り過ぎんだろ ソレ」


―――10年前
東京大震災で東京の70%が水没した。
小さかった私やガンタはそんな疎開前のことはよく覚えてない。

ただ、毎日学校行って
たわいもない話をして盛り上がって、笑う
そんな毎日が―――


『・・・?
あれ?この歌・・』


「なんだ、この歌・・
どっかで聞い・・」


私たちの居場所のはずだった。


ガンタとアリスは聞こえた歌に反応し、後ろへ振り向く。
そこには全身真っ赤で男か女かははっきり分からない
そしてなぜか人間にはありえない宙に浮かんでいた。

『ねえ、ガンタ
私・・目がおかしいの、かな?』


アリスがそう言葉を発する。
だが次の瞬間窓ガラスが全部激しく割れた。
なにが起こってるのか訳が分からなくて。
あの赤い人がなにかをしたのかは事実。
覚えてるのは飛び散った窓ガラスが体に突き刺さったり傷を負ったということだけ。
アリスは痛みとともに意識が遠退いていった。



同じく意識を失っていたガンタが目を覚ます。


「―――って・・
何だったんだ今の・・」


横目で見ればアリスが倒れてる
すぐに駆け寄り、体を揺さ振ってやればゆっくりと目を開かせた。


『ん・・っ
ガ、ンタ・・?』


「アリス!
よかった・・!」


『痛た・・!
一体なにが起こったの?』

膝をつき、痛みに顔を歪ませれば視界に美々の頭が見えた。


『美々・・?』


「アリス!見んな・・!」


見なければよかった。
私やガンタの大事な大事な友達。


『嘘・・嘘・・っ』


美々はあの赤い男の手の中にいて、無残な姿。
胴体はどこにあるか分からず首だけだった。
周りを見れば血だらけの教室。
きっとクラスの子達の飛び散った血だろう。
生臭い血の匂いが鼻に広がる。


『あああああ・・ああっ
うああああああッ!!』


狂ったように涙ながらに叫ぶアリス。
ガンタも叫びたい気持ちでいっぱいだった。
赤い人、いや・・赤い男
こちらへ体を向ける。
キシッと変な声で笑った。
歩み寄る仕草に体は敏感に反応する。
心臓は大きく跳ねて、嫌な汗が額からたれた。
赤い男の手には赤いガラスがあって。


『・・っ!
ガンタ!逃げて!』


「無理・・だ
アリスだけでも逃げ・・っ」


その赤いガラスは赤い男によって放たれ、ガンタに向かってくる。
避け切れるほど今のガンタには反射神経は良くなくて


『ガンタァ!!』


すぐ近くで聞こえたアリスの声。
ガンタを庇い、赤い男の攻撃を一緒に受けた。
体に重たい衝撃を受け、ここでまたガンタとアリスの意識は失われた。



次に目を覚ましたのは病院で。
医薬品の匂いが独特なことから病院だということはすぐに分かった。
ベッドから体を起き上がらせ隣を見ればガンタが眠ってる。
寝顔を見てほっとした。
、が次の瞬間物凄い吐き気がアリスを襲う。
気がつけばトイレで吐いて


『・・っげぇ・・
げ・・っ、げほ・・!』


ほっとした途端思いだしてしまった。
殺されたクラスメイトに生臭い血の匂い。
どうしてこんなにも、脳裏にはりついてはなれてくれない。
忘れたい。忘れてしまいたい。
なのに


『・・うぐっ』


そしてまた私は吐いた。
病室へ戻ればさっきいなかった警察が来てガンタを連れて行こうとしていた。


『ガンタ!?』


「アリス・・」


「―――、君が国野芽アリスさんだね?」


そう言って警察の人達は証拠のための警察手帳を見せてきた。


『・・・?
そうです・・けど』


「丁度よかった。
君も一緒に来てもらうよ」

『は・・?
ちょ、なに!?』


「アリスに触んなよッ」


ガシャンッ
アリスの両手首に手錠がかけられる。
ガンタと同じように。

長野第4中学でのクラスメイト大量殺人事件――
どこを見てもこのニュースばかり流れてた。
なにを言っても警察の人や国選弁護人の玉木さんと言う人は聞いてくれず有無を言わさず連行された。
唯一の証拠を、と期待した赤い男に撃たれた胸を見ても傷一つなくて頭がこんがらがった。
―――そして私たちにつきつけられた現実が



「――以上の諸事情を考慮し異例ではあるが五十嵐ガンタ・国野芽アリス被告を主文の通り・・」


"「死刑」とします"



死刑だった。