lip' | ナノ

「ん〜・・!
完っ全ふっかーつ!」


背伸びをすれば傷口がずくんと痛んだ。


「・・!!?
ではない、か・・」


痛みに耐えて、壁に手をつく。
久しぶりに負けた死肉祭。
今でも深手を負ったあの一撃が鮮明に思いだされる。
私らしくなかった。
私の千地への気持ちを巧みにつかわれたみごとな策略

「・・これじゃ私ばっかり好きみたいじゃない」


恥ずかしい。
誰もいないって分かってるのに顔を両手で覆った。


『千地クンの運命は君が握っている』

『・・っ・・!?』


あの時確かに私は攻撃することを止めた。
攻撃は私の鎌にあてられたぐらいであまりの衝撃にバランスを崩した。
そしてもう一撃。
床に倒れ、数発くらう。


『君が大人しく負けてくれればいいんだ』

『や・・だ・・!』

『聞き分けのないコだ
言ったろう?千地クンの運命は"女神"の君が握ってると』

『まさか・・!』

『君が負けて体の一部を抉られるだけなのと、千地くんがこの世から消えるのと、果たしてどっちが正しいんだろうね』

『・・うあ・・』

ふるふる、と首をふる。
涙目の私を嘲笑うかのように下衆た笑みを零した。

どうして どうして

千地はなにもしてないのに
こんなのがあっていいわけがない。


『さて、・・どうする?』

血の刃を人間にしては長い舌で舐める。
その姿にぞっとした。


『・・負ける、けど
死にたくは・・ない・・
お願い・・!千地と約束したの・・!』

『あの"女神"もアイツのことになると腑抜けだな』


ブシャ・・!!


"無敵だと思われた『女神』 まさかの戦闘不能――!"



ここまで思いだし、固く目を閉じた。
小さくだけど体が震えてるのがわかり、体をおさえこむ。


「・・ははっ・・
いまさら震えるなんてどれだけ弱くなったのかしら・・」


傷口がずくん、ずくん、って未だに悲鳴をあげてる。

「奈津子」

「・・千地、」

いつのまにか千地が目の前にたってた。
気がつかないくらい痛みに耐えてたのか。
あの千地がノックなんてものをするなんてありえないから。


「・・今ガンタのやつがハミングバードと闘ってやがる。
俺ぁちょっと行ってくるが奈津子、テメエはどうする?」

「・・・」


千地を見上げた。
壁づたいにゆっくり立ち上がる。まだ回復してないに近いからバランスを崩すが千地によって支えられた。

「ありがとう。もう大丈夫よ。」

「行くぞ。」

「ええ。」


部屋をでて会場へ向かえばガンタはハミングバードの鞭の攻撃を受けてた。
なぜかもう一人リンクにあがっていて人質になってるではないか。
鐘が鳴り、2Rが終了の合図がおくられる。
ガンタはあまりの痛みにコーナーにすら戻れずにいた
ふらつき、倒れそうになるガンタを支える千地。


「オイオイ
なにをズッパシやられてんだ
オレに勝った野郎がよ?」
「なるほど。
やっぱり水名月はあんな性格だったんだね」

「・・千地さん・・!?
それに奈津子さんも
大丈夫なんですか!?」

「血だらけのガンタくんに心配されてもねえ。」

奈津子の笑顔を見てほっとするガンタ。


「しかし水名月が相手とは・・
罪の枝の相性が悪い。
まずは女だからな
最悪だ」

「いや、女ってのは関係ないですけど
あの鞭が・・」

「お前の罪の枝『ガンタガン』は直線的だからな
軌道が読まれすぎるんだよ」

頭に?が浮かぶ

「・・・
『ガンタガン』・・?」

「お前の罪の枝だ
オレがズッパシ命名してやった」


千地がそう言えばものすごく嫌な顔、ショックをうけるガンタ。
そりゃそうだろう。
奈津子が近寄り頭を撫でる。


「勝てるよ。ガンタくん。
よく考えて、いくら鞭が早くても出所はひとつだよ」
「出所・・」
(あの髪の毛・・)
「・・でも狙おうにも羊くんを盾にされて」

「え!?そうなの?
・・うーん・・そうきたか」

「?そいつごと撃てよ」


さらっと言う千地。
奈津子は千地の脇腹を肘でうちこんだ。
ぐふっとうめき声をあげる

「ムリです友達です」


なんて甘えた言葉を言う。

「ガンタくん、ここじゃそんな言葉は通用しないんだよ」

「でも・・奈津子さん」

「めんどくせーなお前
まあガンバレ
イガラシガンタ」


千地が奈津子の肩を抱きその場から去ろうとすればガンタは困惑の声を発した。


「負けんなよ
それがオレに勝った男の責任だ」


目線をあげ、
歩く千地に声をかける。


「・・あんなこと言ったら余計ダメになるんじゃない?」

「そのときはアイツの終わりだ」


そりゃそうですが。
冷たいなあ、なんて心の中でため息を吐く。一人残されたときのガンタの表情を見る限り心配そうだが。千地に勝ったんだ。そう簡単に死ぬ筈ないだろう。

カァン

"では最終R!"


(そんなこと言ったってオレはまっすぐしか撃てな・・)

(!
待てよ・・!?)


ふと、なにかに気がつくガンタ。


(まっすぐ撃てるならまっすぐ当たるとは限らない・・・!)


このRにきて攻撃をはじめる。だがその攻撃は水名月にはあたらない。そのスキにガンタの方が攻撃を受ける。


「ぐアア、ア」

「コラ
もっと撃て
ガンタガン!」

「だ・・ダサッ!?」


千地が叫んだ言葉にそう言うチョップリンに同意の視線をおくる奈津子。
不満そうな顔をしてれば千地が声をかけてくる。


「なんだその顔」

「ネーミングセンス最悪 ガンタくん可哀想」

「なんだとコラア!!」


当然血の気が多い千地はキれてたけどそんなのに構ってる暇はない。今は試合の方が大事だし。


「・・・!もしかしてあの攻撃・・!」

「あ?」

「千地、もしかしてガンタくんなにか秘策があるのかもよ」


にっと、笑みを浮かべる奈津子に意味が全く分からなかった。



当たるどころかかすりもしないのにガンタは休めることもなく攻撃を続けた。


「だからどこ狙って・・!」


ズガンっ!


避けたはずの攻撃が水名月の背にあたる。なぜ?後ろには誰もいないのに。
そこにはひとつだけあった。

「ーーー・・・リングの柱・・!?
さっきからの攻撃は角度を測ってたのか・・!!」


ガンタの攻撃があたったことにより水名月の髪が切られ、人質が解放される。

「馬鹿はお前だよ」
「ああ?」
「一度裏切られただけで・・嘘ついて傷つけて・・そんなの自分が辛いたけじゃんか!」
「テメエになにが分んだよ!てか近よんじゃねえよ!」
「分からないよ!けど・・そんなのもっと自分が辛くなるだけじゃんか・・!」
「・・!」


水名月の表情が変わる。ガンタは一瞬できた隙に頭を振りあげて水名月の額めがけてふりおろした。会場内に響く鈍い音。あまりの痛みにふらつく。それは意識を手放すほどだった。水名月は背中から倒れこんだ。

「ダウーン!ハミングバード撃沈!なんと決め手はウッドペッカーのヘッドバット!」


司会がコールする中会場内からは文句の声が飛び交う。こんな決着の仕方があるか、殺せ。と。ガンタは中指をたて、モニターに向かって叫ぶ。

「うっせえ!バーカ!誰が女の子殺すか!勝ったんだからいいだろ!?さっさと終わらせろクソメガネ!」


この時のガンタはガンタじゃないみたいで。奈津子はふっ、と微笑んだ。


「なんてセンスのない勝ち方なの」
「カッカッカ」


ありえないといった表情のチョップリンに対して満足そうに笑う千地。奈津子はチョップリンの肩を叩き、席をたった。


「どんな勝ち方であっても勝ちは勝ち、だよ」
「でもねえ、奈津子ちゃん」
「奈津子どこ行くんだ?」
「ガンタくんのとこ!」
「あ、奈津子ちゃん!」


駆けていく奈津子に千地はため息を吐く。頭をがしがしとかけば


「奈津子ちゃんガンタくんにとられちゃうかもね」


からかうチョップリンの声。そんなワケあるかってんだ。あいつに限って・・そんな、
もやもやする中奈津子がガンタに抱きついてる姿を目撃。千地からぶち、となにかがキレる音が聞こえた。


「ガンタあああ!」
「え、!?」


タイトル/バルバロイ