lip' | ナノ

アイツとわかれてから胸のもやもやがとれることはなかった。
死肉祭も見たくなくて。
だからトレーニングルームでひたすら汗をかく。
普段の俺ならこれでなにもかも忘れられる筈なんだ。
アイツになにかがあったのは分かってる。
"手をださないで"
俺がいつも口にしてた言葉だ。
まさかアイツに言われるとは思いもしなかった。
・・だからなんだろうか。

俺には関係ないって言われてるみてえでなんだか無性に腹がたった。

罪の枝を発動し、サンドバックや周りの壁を切り刻む
ドサドサ、と音をたて、原形を保てなくなったそれは簡単に崩れおちた。


「・・っくそ
ズッパシいけてねえ・・!」

一段落して、初めて聴覚を改めて動かした。
どたどたと響くなん人もの足音に声。


「呼吸器を早く!」

「他に問題はありません
ただ自分で呼吸できるほどの力が残ってないみたいです!」

「なんだあ?」

部屋の外へでてみれば医者のヤローどもが慌ただしく廊下を行ききしていて。
その後をバカ女やオカマ野郎、ガンタが続く。
ガンタの首根っこを捕まえれば驚いた顔で振り向く。

「こりゃなんの騒ぎだ?」
「せっ、千地、さん!?」

なんだその驚きようは。
無駄に目を泳がせてどもるガンタにいらっとした。


「千地さん、には関係ないことです」

「あ?
どの口がそんな偉そうなこといいやがる」

目をそらすガンタの両頬を強くつねれば痛々しい声をあげた。

「いひゃひゃひゃ!」

「オラ!とっとと言いやがれ!」

こくこく頭を頷かせればつねってたほっぺたから手を離してやった。涙目でつねられた場所をさすりながらガンタが言うセリフに俺は耳を疑った。


「・・っ
・・奈津子さんが死肉祭で負けたみたいです」

「は・・?」


負けた?アイツが?
そんなバカな。


「・・ハッ
嘘だろ?」


「本当です!
それで深手を負ったみたいで、今搬送されて部屋へ・・」

「・・なんだそれ・・」

「聞いた話だと奈津子さん攻撃する手を止めたみたいです。その一瞬をつかれて。リングは血だらけに染まってそりゃもうパニック・・あ、千地さん!?」

ガンタの話を嘘だと思いたかった。

手であけるはずのドアを蹴りとばす。
先に部屋に来てた野郎が俺を見る。


「・・やだ・・千地まできちゃったの・・?
・・ガンタくん、まで・・」

俺を見たアイツが弱々しくそう言った。
ガンタと名を聞いて、見てみれば隣に追いついたガンタがいた。
部屋に俺の息切れた呼吸がピッピッという機械音に重なる。
目を見開いた。包帯がぐるぐると巻かれてて。
先ほどまでは元気に怒鳴ってたアイツが。
なんでこうなった?
なにがあった?


「あの、」

「あ!?」

千地の迫力にビビる水名月
潤んだ瞳でなんとか声を発する。

「ひ・・!?
あっあの、あの、
奈津子さんの話聞いてあげてください、ね
可哀想です」

「奈津子ちゃんはああ見えて繊細なんだから〜」
「お腹へった・・」

「そろそろ部屋へ戻らねば」

そんなこと言われなくてもわかってる。
ただアイツが話してくれねえからだ。
全て自分で抱え込んで。
気ぃはって、偉そうで、負けず嫌いの女王様気取り。
そんなこと、俺が一番分かってんじゃねえか。

「アンタがそんなんだと奈津子ちゃんはアタシがもらっちゃうわよ」

ウインクするチョップリン。
水名月はガンタの裾を引っ張り合図をおくる。

「奈津子さんお大事に」

お辞儀をして部屋からでてくガンタに軽く手をふった。

「・・っチ、好き勝手言いやがって」

「ふふ。みんな心配してきてくれたのよ。
千地も。ありがとう。」


「気をぬくな、って教えたろーが。」

「・・?」

「ガンタがテメエが攻撃の手を休めたとかぬかしてたぜ。」

「・・・バレちゃったか」
「なんでだ」

「ちょっと玉木から脅されて。・・とでも言っておくわ。」

「ふざけてんのか」

「真面目よ」

「・・まあいいけどよ」

近くにあった椅子に千地が腰かける。
睨んでるから怒ってるかな?なんて想像した。
でも当たりだ。

「バカ野郎」

「・・ごめんね、千地

でも約束通り生きてたよ」
「ああ・・」

「そういえば私のショウはガンタと水名月との試合のあとに一緒にだって」

「・・ああ・・」


声が震えてるように感じた
あのクロウも私のことになると別人になってしまう。
だからかな。
今回みたいに利用されてしまうのは。
私がいなくなれば一件落着かな、なんて勝手な考え方がでてきてしまう。


「千地が泣いたことは黙っててあげる」

「!?
バっ、俺は泣いてねえ!」

べしん、と病人なのに千地に叩かれた。


タイトル/カカリア