lip' | ナノ

ガンタは1人、通路を歩いていた。
未だあの衝撃的な映像が頭から抜けない。

ここは狂ってる。


「やめてください・・!」

ガシャンッとなにかが割れる音に水名月の叫び声
なにごとかと見てみれば鉢植えを大事に抱える水名月にその持っている花を食べようと彼女に迫っている和哉の姿があった


「食べたい
・・美味しそう」


「これだけはダメなんです!」


必死に守りぬく姿にそんなに大事なものなんだな、と思った。
配られたご飯を和哉にさしだす。


「よければこれ食べていいよ
だから許してあげてくれないかな?」


すぐに食い付きお盆ごと食べていた。
水名月の手をひき、歩きだす。


「今のうちに行こう」


「え・・?・・あ、」


少しだけ水名月の頬が赤かった。
水名月の部屋にはいり、辺り一面花だらけの世界にあいた口が塞がらないでいた
いくらなんでも多すぎるんじゃないかと。


「助けていただいてありがとうございます
食事・・すみませんでした」


「・・ああ、いいよ
どうせあれから食べられないから」


あれから、というのは忌まわしい、ショウを見てから
目玉がえぐりだされたあの瞬間。
自分も同じように痛みがきたように感じた。
吐いてから楽になったもののそう簡単に忘れることはできなくてこうゆうとき記憶力という人間の能力はいらないと思った
ガンタと水名月、2人してベッドへと腰掛ける。
ふと、考えたのだが女の子の部屋に2人きり。
これはまずくないか?
年頃なのはお互い様だがひじょーに、まずい。


「み、水名月さん
俺そろそろ・・」


なにかと理由をつけて去ろうとするガンタの服の裾を掴む。
顔を覗き込めばうっすらと涙を浮かべていて。
焦ってしまった。


「水名月さん!?」


「・・私、もう嫌です
この能力で誰かを傷つけたり傷つけあったりするのは・・・っ」


「・・・!」



―――――――



トレーニングルームを覗けば千地下はいなかった。

「・・どこ行ったのよ
アイツ」

手に持ってたお弁当箱を握り締める。
1人ずつ部屋へ回って千地の居場所を聞こうとしたが生憎誰も捕まらなかった。
(・・あとはガンタと水名月か・・)

コンコン。軽く2回ノックをする。だがなんの反応もない。すぐ近くの水名月の部屋も同じように数回ノックするがまた反応はない。
(・・これは新手のイジメなのかしら)

ガチャン。鍵があいていたので扉を開けてみる。はいった瞬間奈津子は目を丸くした。そこにはワンピースを半分脱ぎ掛けた水名月の姿があった。隣にはガンタがいて。そんな姿を見れば思い当たることは1つ

「・・・」


もう一度部屋の番号を確認した。
だが確かに水無月の部屋なわけで。


「お邪魔だったみたいね?」

「うわあ!
違う!違うよッ!」


扉を閉じればガンタの焦りの声が聞こえた。そんなことおかまいなしに歩いていく。
結局千地は見つからなかった。
まったく、なにしてるのよ

「おい」


振り向けば警備の人が立っていた。ゆっくり奈津子の瞳が冷酷に細まっていく。

「・・なにかしら?」

「玉木プロモーターがお呼びだ。」

「行かないって言ったら?」

「それなりに対処させてもらうとのことだ。」

「・・めんどくさいわね」

呼ばれた部屋へと向かう。入ってから数10分後に奈津子の荒い叫び声が響きわたってきた。


「あーもうっ!
いいかげん解放して!
今日私は死肉祭はでなかったはずよ!」


「急遽変更になりました
今から――と戦ってもらいます」


突然の玉木の言葉に奈津子の怒りは震えた。


「なにそれ・・っ
ふざけんじゃないわよ!
クソ眼鏡!!」


パンッ


奈津子の頬に平手打ちがくらわされる。
少し口から血が流れた。
顔をゆっくりと玉木の方へ戻し向ければ酷く歪んだ顔をしている奈津子がいた。


「あなたは自分の存在が分かってないみたいですねえ?
あなた達デッドマンは大人しく言うことを聞いて私たちの研究材料としてくれていればいいんですよ」


ははは・・とやけに勘に触る笑い声。
心底憎いと思ったのはコイツしかいないと奈津子は思う。


「・・・っ!」


「そんなに嫌だと言うなら仕方ありませんねえ〜」


俯かせてた顔をあげれば


「歯向かった罰として"ショウ"をやってもらいます」


「・・・!?」


「もちろん


"クロウ"も、です」


「な、・・んで?
千地は関係ない・・っ」


「あなた達は2人で1人なようなものじゃないですか
当然です」


がたがたと体が震えた。
玉木の表情に、声に、
逆らえない。

だって脳がストップをかけてる。


"千地が傷つくって"


「・・・試合、何時から?」


「むふふ〜
21時です」


ぎゅっと拳を握る。


「約束は守る
だから・・千地には手をださないで」


「なあに
ちゃんと言うことを聞いてくれてさえいればあなたのお友達を傷つけることはしませんよ」


「ちゃあんと、・・ね?」


微笑んだ玉木の顔は酷いものだった。



そして私の意志なんか関係なくステージに駆り出される。
狂ったお客さんを喜ばすための狂ったショウに


また私は鮮血にまみれるのだ。