lip' | ナノ

今でも忘れることはない千地とガンタの試合。
千地には勝ってほしかった
だって負けたものにはアレが待ってるから――


「千地、体・・大丈夫?」

「ああ?
なに心配してやがる」


「その・・試合の怪我もだけどこれから『ショウ』がある、か、ら」


自分の言葉が途切れ途切れで、動揺してるんだと物語ってる。
情けない、泣きそうだった

「バカか」


「な・・!?」


「今さらだろ」


「・・・!
生活に支障がでるとこだったらどうするの!
腕、とか・・っ」


言葉の途中で抱きしめられた。


「・・こうゆうこともできなくなるんだよ」


「はっ・・
じゃあそうならねえようお前の強運わけてくれや」


「・・・バカ」



ガチャンッ

後ろの扉が開いたことにより2人は体をびくつかせた
すぐさま体を後ろへ向けさせる。
そこにはいつものメンバーがいた。


「チョップリン・・!」


「お楽しみのとこ悪いけど時間よぉ」


「・・ちっ」


千地は舌打ちしながら部屋からでていく。


「あっ・・!
千地!!」


「はいは―い
奈津子ちゃんはこっち」


腕をつかまれ、千地のもとへ行くのを阻止された。
キッと睨み付ける。


「空気よみなさないよ
・・!
このオカマ・・」


ゴン!
奈津子の頭にチョップリンの拳がおちてきた。


「なんですって?」


「痛た・・っ
サイッテ――!!」


痛む頭をさすりながらみんなで長い通路を歩いていく
行き先は五十嵐ガンタの部屋だった。
着くなりノックせずいきなり扉を開けるチョップリン
もちろんガンタは驚いていて。


「あらあ
カギかけないなんてスキだらけ
まあッ
思ったより可愛い子じゃないのォ――」


「・・・!? !?
な・・なんだよ
あんたら・・!?」


かなり驚いてる様子。

そりゃそうだ。
私も最初会ったときここのメンバーには驚かされたから。
意外性な人が多いというか個性的といえばそうなるのか。
とにかく変わってる。

オカマで衣装がぶっ飛んでる一番ありえないチョップリン助川。
見境無くなんでも食べるせいか口が裂けちゃってる頂 和哉。
おどおどしてる引っ込み思案なウブな女の子。
(私にはなにか裏があるんじゃないかって思ってる)
鷹見 水名月。
77歳には見えないくらい体つきがいい。本名不明だけどみんなヒタラじじいって呼んでる。


「・・ッ」


(な・・なんだ
この人達・・
ここの住人ってことはみんなデッドマンなのか・・!
何しに来たんだ・・!?)

困惑するなか、ガンタの瞳に見知った者の姿が映る。

「君・・!」


そう。
試合前に部屋に訪ねてきた女の子。


「・・名前言ってなかったね
琶畝 奈津子」


あの時とは違う雰囲気。
なんだか苛立ってるように見える。


「・・?」
(俺なんかしたっけ・・?)


「ごめんなさい
怖がらないで」


「ダイエットしなきゃ
でも今日はいっぱい食べていいよね」


「・・早くしろ
・・と我が娘が言っている」


水名月、和哉、ヒタラじじいの順で言葉を発する。


「さあボーヤの祝勝会よ!
勝った賞金でみんなにビールの一杯くらいオゴリなさいよ
それが男の粋様ってもんでしょう!」


「・・へ?」




連れてこられたのはひとつの店だった。


「――では新しい仲間に
カンパイ!」


(こんなところに店があるなんて・・)


呆けてるガンタに水名月がいろいろと説明してくれたでも今のガンタにはそれより気になることが


「あの子・・
いつもあんな感じなの?」

「ああ、奈津子さんですか?
普段は穏やかでいい人ですよ
・・でも今日はショウがあるからピリピリしてるみたいです」


「・・ショウ?」


「ハァーイ
宴もたけなわ
恒例の"敗者残念ショウ"の時間よォ!」


でてきたテレビに映ったのは千地で、椅子に座ってる光景だった。
奈津子は顔を歪める
ガンタはそんな小さな反応を見逃さなかった。


「あの・・奈津子、さん?」


「・・私千地を傷つけるひとは許さないって言ったよね?」


「・・・!」


そうか。
彼女が怒っていた理由はこれかとガンタは改めて認識した。


「でも俺も命かかってたんです
お互い様・・」


俯いてた顔をあげ、奈津子にひどく睨み付けられた。


「・・・アンタが勝たなければ千地はこんなことにはならなかった!」


「・・・ッ」


「・・ごめん
それは言ったらいけないよね
どちらかがこうなるんだもん
これは敗者の罰ゲーム
私たちは貴重なモルモットだから死肉祭で負けたら体の一部を献体されるの」


「え」


スロットがまわり、千地がストップをかける。
画面には目のマークとRIGHTの文字。


「右目ね」


女医はそう言いながら白い手袋をはめた。
千地の体に暴れられないよう機具をとりつけていく。右目にもよく開けて固定できる装置をとりつけた。
そしてなにやら怪しげな道具を千地の目の中にいれ、ひっかける。
これからなにが起こるか、嫌でも想像することができる。
ぶちゅぶちゅっと体から目が離れる音が妙に響く。
そこに千地の声がまざれば目を開けていられない。

千地の右目の目の玉がとりだされ、皿に置かれたところで映像は消えた。
平然としている周りにおかしいとしか思えなかった。
ガンタもなにがおこってるのか分からず、ふと横目で奈津子を見たら涙してる姿に胸がずきんと痛んだ
まともなことを要求するな
ここは自分がいた所とは違う。


これが現実なのだから。