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――『死肉祭』

それはデッドマン・ワンダーランドにおける最大のショウタイム。
デッドマンとは東京大震災以来出没した罪の枝感染者のこと。
その能力を存分に発言させる実験だ。
その内容は主にデッドマン同士の殺し合い。
反論は絶対許されない。
それが『死肉祭』のルールだ。


『せいぜい死なないようガンバレよ!』






22時――


ドクン、ドクン、

こんなに煩いくらい心臓が高鳴ったのはいつ以来だろう。
情けないほどガンタの体は恐怖心で震えていた。


(・・畜生・・
恐い・・・!
何だよ カーニバルコープスって・・
いきなり・・
―――そんなの負けたら・・
負け・・)


そこまででガンタの脳裏に容器にホルマリン漬けの目玉を思い出し、背筋が凍った。
消すため、頭を力強く左右にふる。
あの玉木とか言うメガネ野郎。
言葉にできないぐらい最悪な奴。
赤い男も、あの男も。
ぶっ殺すためには負けられない。
握る拳はじんわりと汗ばんでいて。
勢いよく真上から光が降り注ぎ、反射的に目を瞑ってしまった。
始まりの証の照明だった。

『Hello!
Ladies and Gentlemen!

Thank you for coming to "CARNIVAL CORPSE"!』


ついに始まった『死肉祭』
奈津子は邪魔にならず見つからないよう指定位置へと座る。


(始まる・・か
君の力見せてもらうよ)


「・・・あの千地が手加減するとは思えないからねえ
取り敢えず死ぬな、ガンタくん」


自分のなかでは可愛い玩具を見つけたようでついつい応援してやりたくなる。


『歴戦の黒いかぎ爪"クロウ"!!
14歳のニューカマー"ウッドペッカー"!!』


千地が腕を切り血をだす姿に体をびくつかせるガンタの姿を見て奈津子はため息を吐いた。


「・・緊張してるのネ
でも始まったらそうはいかないよ」


『――レディ・・』


「・・さっきから何ビビってやがる
てめえはただのガキか?」

『・・デッドマンズ・・』

「それとも・・」


(あ・・、千地が本気の目になった。)


『Fight!!』


アナウンスと共に鐘の音が響き渡った。
それにあわせ、ガンタはセットである木に登っていく

「おいおい
いきなり鬼ごっこか?」


(刃の届かない距離に逃げなきゃ・・
そっから攻撃だ・・!)


『ウッドペッカー逃げ回ります』


(うごけ・・うごけ・・!)

ガンタの心に血が反応する
後ろを追い掛けてきてる千地にめがけてはなつ、が

軽くたたっ斬ってしまう。

「ズッパシ」


さらに連打する。
だがそれも呆気ないほど簡単に受け流されてしまった

(だめだ、もっと・・
もっと強く・・!)


先程よりもかなりの威力をこめて千地へと放つ。
その姿を見て奈津子は小さく呟いた。


「やっぱりまだほんとの罪の枝が分かってない」


斬ったソレは当たりはしなかったものの衝撃は凄まじく、床を割り、千地の両腕にビリビリと衝撃が奔る。

「いい弾だ、が」


「・・・!?」


ぞくん、と一瞬ガンタの体を悪寒が駆け巡る。
血液が無くなりかけてるガンタの体を蝕んでいくのが寒気や目眩や体の震え、そして吐きそうなほどのキモチ悪さ。
この感覚、貧血によく似ているが違う。


「ガキの体じゃそろそろか?
飛び道具の"罪の枝"の欠点だ
てめえの血を撃ってんだ
体から血が減りゃどうなるか小学生でも分かんだろ」

確かに。
このまままっているのは確実に"死"のみだ
景色が歪む。
眩しい。
地面すら分からない。

なんだよ、コレ・・


困惑だらけの頭の中、見えないなにかに木が切られ自分の足場がわりにしていたガンタは見事床に落下した

「うわっ・・!」


千地の刃が容赦なくガンタを切り刻む。


「(なんで刃が届いて・・!?)
!!」


千地の刃は形が網目みたいに変形していて、血の量を変えず大きくしたのだと判明した。
そんなことができる時点で今の自分との力の差は歴然すぎる。


「ガキの世界の終わり方を教えてやる
それが千地清正だ!」


冷酷な千地の瞳。


「あーあ、アレは完全にスイッチはいったな」


奈津子は呆れながらにそう言った。
でもこれで千地の勝ちは決まり。
ガンタも頑張ったが千地と戦うには早すぎたようだ。
おろしてた腰をたたせようとする
・・・が、


「嘘・・っ」


倒れてたかと思ったガンタは千地の足首をつかみ抵抗を見せる。
そのままゆっくり立ち上がった。


「血の量も体力も限界のハズ・・」


力をふりしぼり照明にあてた。
照明は千地めがけて落ちてくる。


「喰らうか・・ッ」


照明を斬った瞬間、懐にはいったガンタの姿が目に映った。
照明は千地をひきつけるための囮。
本当の狙いはこっちだった
だがもうガンタにはさきほどみたいに撃てる力は残されていないはず。
奈津子や千地こそもそう思ったのに。


「・・オレはガキじゃない・・っ
ウッドなんとかとか、デッドマンとか・・5580号とか知らねえ」


千地の胸にあてた右手に血の力が集まっていく。
ガンタの胸の部分が光を放ってるのが見えたのと同時に技が放たれた。


「オレはっ・・
五十嵐ガンタだっ!!」


自分よりも数倍ガタイがいい千地を吹き飛ばした。
そしてそのまま仰向けで倒れこむ。


「まさかの・・"クロウ"ダウン!!
これは・・大番狂わせ!
"クロウ"千地立ち上がれず!
勝利をつかんだのはなんと――
14歳のルーキー
"ウッドペッカー"!!」


大歓声の中、勝利宣言されたのはガンタだった。