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新一が小さくなってから大分月日が過ぎた頃、事件は起きた。


「怪盗キッドぉ!!?」


コナンは聞き慣れない名前にすっとんきょうな声をだす。


「あれ?
お兄ちゃん知らない?
今、結構有名なんだけど・・・」


"はい"


そう言ってコナンに新聞を渡せばその欄だけ真剣な眼差しで見る。
陽莉はくすりと笑った。
そこに載っていたのは純白の衣装を身に纏い、シルクハットにモノクルといった普通ならしない格好をした少年


「いまね、女の子たちの間で人気なの
カッコいいでしょ」


「けっ
只のコソ泥じゃねーか」


頬杖をつき、片手で新聞をぐしゃり。
陽莉の方を見れば頬がほんのり赤い。
それを見てコナンの動きがぴたりと止まった。


「おい、陽莉
まさかオメーもその怪盗キッドのファンだとか言うんじゃねえだろうな。」


「・・・、え、
ちがう よ?」


指をもじもじさせて視線を泳がす。
なんともわかりやすい。


「だめだからな
そんな得体のしれない男は!」


「そんなんじゃないよ!
なに言ってるの、お兄ちゃん!」


更に顔を赤くさせる。
兄としては複雑だ。
なんとしても陽莉をキッドから守らねば。
じとっと絡みつくような、なんともいえないコナンの視線が痛くていたたまれなくなった陽莉。


「あ、と、
私買い物行かなきゃ!
じゃあちょっとでかけてきまーす!」


「おい!陽莉!」


バタン!

コナンが声を発した頃にはそんな音が聞こえた。


「―――・・ったく」


なんとも深い溜め池をもらす。
キイっと、奥の部屋の扉が開き、でてきた阿笠博士。


「なんじゃ
陽莉くんはもう帰ってしまったのかの?」


「買い物だとよ」


更に奥からでてきたのは博士の家に一緒に住まわせてもらっている灰原哀。
雨の中、博士の家の前で倒れてたところを拾われたことからがキッカケだ。
新一と同じ薬をのみ、体が縮んでしまったのだという
そもそも黒ずくめの男たちの仲間だったらしく、この薬を作った本人だ。
仲良しとまではいかないが今ではすっかり馴染んでしまっている。
帝丹小で歩美、元太、光彦、俺と結成されてた少年探偵団に哀も加わり、一層賑やかになった。


哀は腕くみをしてたったままちらっとコナンの方に視線をやり、ぼつり呟く。



「ここまでとはね・・
さすがに見てて呆れるわ」


小さくふう、と息をはいた

「ほっとけ・・」


くすくすと笑う哀に頬を赤く染める。
昔から可愛がってきたんだ
陽莉もべったりだったし、今さらって思ってしまう。
両親があんなだから俺が陽莉を守らなきゃいけないし、陽莉も俺に迷惑かけないように強くならなきゃと言って最近は甘えてこない。
それはそれで寂しかったりする。

多少ドジなところが気になるのだが・・


「そういやちゃんと買い物できてんのか?
アイツ・・・」






「くしゅんっ!」


両手に買い物袋をぶらさげたまま陽莉は小さくくしゃみをした。


「誰かに噂されてるのかな?」


きっと心配したお兄ちゃんが阿笠博士と話してるからに違いない。
ずっと鼻をすすり買い物袋をもちなおす。
いつもの量と比べたらかなり買い込んでしまった。


「おっ・・重・・・!」


細い陽莉の腕には似つかわしくないほどの荷物の量。
少しふらついた時だった。
体が右に傾き、がきっと変な音が聞こえる。
よく見てみれば溝にヒールがはまっていた。


「・・嘘・・っ」


深く食い込んでしまってるため、なかなか抜けない。


「どーしよ・・っ
これお気に入りなのに〜!」


おろしたての可愛らしいパンプス。
誕生日に買ってもらったとても大事な靴。


お兄ちゃんの助けを借りようか・・?
いや、絶対バカにされるに違いない。
むしろもう買い物とか外出が許されないところまでいきそうだ。(←大袈裟)
困り果てていれば自分の影にもうひとつ影が重なった

「どうしたんだ?」


声につられて顔をあげる。
陽莉は目を大きく見開いた。


「・・お兄ちゃん?」


「へ?」


陽莉がそう言えば少年は間抜けな声をだし、驚いた顔をしていた。

それに慌てて口を閉じる。


(そうだ!
お兄ちゃんがおっきいはずないんだった・・)



「あ、・・と
ごめんなさい
家族に似てたものでつい・・・」


「・・ヒール抜けないのか?」


はまってる靴に目線をやればさっきまではなんともなかったのに急に恥ずかしくなった。



「・・・、
っ、はまっちゃって」


陽莉がしょんぼりした様子でそう言えば少年は靴に手をかけて、ぽんっと簡単にとってしまった。


「ほら」


陽莉の手の中に靴がおとされる。


「わっ・・!
あ、ありがとうございます!!」


背をむけたまま、手をふり名前も名乗らず去っていった少年。
陽莉はそんな少年の背中をずっと見つめていた





(あんなにお兄ちゃんに似てるなんて
びっくりしたあ・・)