翌朝―・・
陽莉はアラーム音がなる前に目を覚ました。
自室にある化粧台の鏡の前にいき、顔を見ればぎょっとした。
泣きすぎたせいか目のまわりが赤く、腫れぼったい。
「ひっどい顔・・」
昨日は一晩中泣いたからなあ・・
そんなことを思っていればノック音が聞こえた。
「陽莉!
俺もう行くからな!」
「・・・、はあい」
いやみたらしい声でそう言えば不機嫌な新一の声がかえってくる。
「あんだよ、なに怒ってんだ?」
「怒ってない」
「あからさまに怒ってんだろ」
「・・お兄ちゃん、ほんとに今日がなんの日か覚えてないの?」
「あー?
別に今日はなにもないだろ?」
「〜・・っ
お兄ちゃんのバカ!
さっさと行っちゃえ!」
陽莉は枕を壁へとぶつけた。
その衝撃に扉の外にいた新一は体をびくつかせた。
「おわっ!
・・やっぱ怒ってんじゃねえか
今頃反抗期か?陽莉のやつ・・」
やっぱ嫌いだ!
お兄ちゃんなんか!
自室の窓から外を眺めて新一の姿が見えると新一には分からないようにあっかんべーをした。
「・・・・・。」
(・・でもこのままじゃ嫌だからおかえりなさいはちゃんと言おう)
夕飯は新一の好きなものを作ることにした。
ケーキを買って、お祝いしよう。
華やかにしなくていい。
大事な家族と祝えればそれで。
陽莉は上機嫌で鼻歌を唄いながら家事をこなすケーキのために早めの買い物をすますのだった。
だが、
どんだけ針が廻っても、新一は帰ってこない。
朝は陽莉が意地を張って部屋からでなかったから行ってらっしゃい、も昨日言えなかったごめんなさい、も言えてない。
(早く帰ってきて
お兄ちゃん・・)
強く、心の中で願った。
蘭に電話でもしようかと思った矢先、自宅のコール音が鳴り響く。
すぐさま走り寄って受話器を取った。
「もしもし、工藤です
・・・あ、蘭さん?
いえ、お兄ちゃんはまだ・・・
え・・・??」
今日会った出来事を聞かされた。
ジェットコースターで殺人事件が起こったこと。
それを解決し、たまたまそこに居合わせた黒ずくめの男二人を追い掛けて遊園地で別れたこと。
それからまったくお兄ちゃんと連絡がとれないこと。
頭の中が真っ白で受話器をもつ手の力が抜けた。
「陽莉ちゃん?」
「あ・・っ」
落ちてしまった受話器を慌てて拾う。
「私は新一を探すから陽莉ちゃんは家にいてもらっていいかな?」
聞こえる蘭さんの声はか細くて酷く弱々しかった。
「・・いえ、私も探しにいきます!」
待ち合わせをして、探すことを決めればすぐさま玄関に向かい、靴を履き、傘もささず雨の中を走りだした