dc | ナノ





「ねーねー、お兄ちゃん!ピンクと白どっちがいい?」


「何回聞いてんだよ
そんなんどっちでもいいじゃねーか!」


コナンの目の前にはフリルのレースが沢山ついたピンク色のふんわりワンピースに、真っ白、純白の胸に切り替えがついたシンプルなワンピースが視界にはいる

「お兄ちゃんは乙女心が分かってない!」


「へーへー」


拗ねる陽莉にコナンは呆れ顔でそう言った。

今日はどこかのホテルでブルームーンのお披露目会が行われるらしい。
蘭のところにきた招待状には陽莉の分も同封されていた。
せっかくのパーティーなんだからお洒落しなきゃ、と現在に至るのだった。
おかげでファッションショーに付き合わされるはめになったのだ。


「女の子はお洒落には気を遣うものよ」


「灰原!」


「哀ちゃん!」


博士と一緒に部屋からでてきた哀が言う。
どうやら今まで博士の研究につきあわされていたみたいだ。


「研究終わったの?
そうだ!今からお茶にしようと思ってたんだけど一緒にどう?」


陽莉が嬉しそうに話し掛ければ哀は照れた顔をした。
ふいっと下を向き、俯いてしまう。


「ムリムリ!
灰原はいつも付き合い悪ぃんだ・・」「いただくわ」
「・・・、はあ!?」


普段とは違う哀にコナンは目を見開かして驚いた。
いくらなんでもあまりにも態度違いすぎじゃねえ!?
なんだよ
そのしおらしい反応はよお!!


「・・お兄ちゃん顔怖い」

「ほっときましょ
・・あら、これ美味しい」

「ほんとっ!?
これ私が作ったの!
失敗しちゃってどうしようって思ってたんだけど・・」

「全然そんなことないわよ」

「嬉しい!
ありがと、哀ちゃん!」


ぎゅっと抱きしめればまた哀は頬を赤くした。
微笑ましい光景に博士は髭をいじりながら笑った。
コナンはいまだふてくさった顔をしている。


「なんじゃ新一
そんな顔して」


「・・なんでもねえ」


「陽莉くんは天使みたいな存在じゃからの」


「・・・・・」


つまり、灰原に嫉妬してるってことか。
ちっさい男になったもんだ
別の意味で小さいが。


「それで?
ドレスの色は決まったの?」


「あ――・・
それがまだ・・」


「なにに悩むことがあるんじゃ?」


「博士!
・・だってピンクは女の子らしさをひきたたせるカラーだし、白は白で大人っぽくしたいってのもあるけど・・」


ここで陽莉はいったん言葉を止めた。


「「「?」」」


「白は・・キッドカラーだもん」


「ああ、なるほど!
陽莉くんもキッドファンか!」


「・・ふーん・・
誰をも魅了する怪盗キッド
恋しちゃったってわけね」

「や・・!
哀ちゃんったら!
はっきり言わないで!」


バキッ!
派手な音に振り向けばコナンが先ほどまでメモ書きに使ってた鉛筆が折れた音・・・いや、正しくは折った音。


「お・・お兄、ちゃん?」

「てめ・・っ
陽莉!
こないだは違うって言ってたじゃねえかよ!」


「う・・
でもあれはお兄ちゃんが最初から反対するから・・!」


「あったりめーだ!
相手は怪盗だぞ?怪盗!
か・い・と・う!!」


「何回も言わなくても分かってるよ!」


じわーっと目頭が熱くなって、涙が溢れてくる。


「まあまあ新一!
なにもそこまで・・」


「陽莉が可哀想よ
いいかげん妹離れしたらどうかしら?」


「・・・ッ
俺、だって、なあ・・
好きで反対してんじゃねーよ!
相手の問題で・・!」


「相手の問題ってなに?
ただ好きになったひとが怪盗って仕事なだけでしょ!?」


「陽莉はなにも分かってねえ!
怪盗は犯罪だぞ!?



「・・っ!
そんなことわかっ「それをおまえは手助けするのかよ!?」」


「〜〜〜・・!
誰もそんなこと言ってないじゃない!
お兄ちゃんのバカ!
一生小さいままでいればいいんだよ!!」


派手に扉をあけて陽莉は阿笠宅をあとにした。普段大きな音をたてて走ることはない陽莉がどたどたと反抗するかのよう音をたてる。
博士はもちろんのこと哀までやれやれ、みたいな表情をしている。


「・・っくそ!」


コナンは体を荒々しくソファーへ座りこませた。
頭をがしがしとかく。

言い過ぎかもしれないがこれは陽莉のためなのだ。
普通の一般人ならまだしも"キザ"という異名をもつ怪盗だ。
可愛い妹を守ることのなにが悪い。
それとも陽莉を信用してないということになるのか?
ぐるぐるといろんなことが回る思考の中、哀の視線に気がつく。


「あなたたちの喧嘩につきあわされるこっちの身にもなってほしいんだけど」


「・・バーロ
喧嘩したくてしてんじゃねえ!」


「どうかしら」


バチバチと火花が飛び交う
血の気が多い人ばかりがまわりにいるんだな、と改めて気がつく博士だった。


キッドの予告状、兼ブルームーンのお披露目会の日。すでにパーティー会場の中は人でいっぱいだった。


「すっごい人・・!
これ全部キッド集まりの人かなあ?」


「そうじゃない?
私服の警備員もいるみたいだし」


園子が指さすほうには数人、見知った顔の警察の人がいた。


「それより陽莉
あんたなんて顔してんのよ」

「陽莉ちゃん
なにかあったの?」


「・・なんでもないです」

「だったらもっと楽しそうな顔しなさいよね!」


「・・ごめんなさい
私、お手洗いに行ってきます」


人ごみをかきわけて外にでた。
警察は廊下にまで配置されていて。
ちょっと嫌な気分になった
トイレにはいり、顔を見る
園子のいうとおりすごい顔だった。


「・・たしかにすごいなあ
この顔は」


鏡を見ながら顔をつくる。
大丈夫!笑えるよ!
そう自分に魔法をかけて外にでた。
白いドレスをなびかせて会場へと戻ろうとする。
だが次の瞬間どこも真っ暗になった。


「え・・?」


まわりできゃーきゃー言うなか、自分の体が宙に浮かんだ気がした。
いや、まさしく浮かんだのだ。
何者かの手によって。
ごつごつしてる手だから男の人かもしれない。


(嘘・・っ
やだ!)


つれてこられたのは屋上だった。
どさり、と床におろされる
すぐに上へと視線をやればその目を見開かした。
だって・・怪盗キッドがたっていたから。


「・・キッド・・?」


「こんばんは
美しいお嬢さん
いえ・・陽莉嬢」


「なんでここに・・
約束の時間はまだ・・」


「なにを仰って、
約束の19時はもうなってらっしゃいますよ」


時計を見れば19時10分をまわっていた。
自分がトイレにはいってる間にこんなにも時間が進んでいたとは。


「あ、ブルームーン
・・」

キッドは満月の光にブルームーンをあてて、のぞいている。
だがすぐその仕草を止めて陽莉の方へ歩み寄った。


「あ・・っ」


体を引き寄せられる。
ドキドキが止まらなかった
自分の白いドレスに、左胸のところ、ブルームーンはキッドの手によりつけられた。


「このブルームーンはあなたのような美しい方によく似合う」


「・・・怪盗さんってもっと真面目なひとだと思ってました」


「ご冗談を!
私はいつも真面目ですよ」

にっ、と悪戯っぽく笑う彼に頬を赤く染めた。
さきほどから胸の鼓動がうるさいくらいに高鳴っているのが分かる
キッドが左胸につけてくれたブルームーンをきゅっと握る。


「・・あ、あの・・っ
私がなんでドレスを白色にしたか分かりますか・・?」


「・・さあ?」


「・・っ・・


あな、た、と

おなじ・・色、・・だから・・・っ」


ぼそぼそと呟く陽莉の言葉は途切れ途切れで最後は小さく聞き取りにくかったと思う。
だけど彼は"キザ"な怪盗だ
陽莉の反応でわかったのか口角を吊り上げ、笑う。


「すみません
よく聞き取れなかったみたいです

・・・私、が?」


「・・・っ!」


足音をたてて陽莉の近くに歩みよるキッド。
見下ろされる視線がなんとも恥ずかしい。
そう思った瞬間、顔に熱が集中する。
真っ白な色白の陽莉の顔はまっかっかだった。

「教えていただけますか?
陽莉嬢」


ちゅっ

軽く陽莉の手の甲にキスをおとせば陽莉はいきなりの出来事に驚きを隠せなかった。
キッドの真剣な瞳にすい寄せられる。
目がそらせない。


「え、えと・・っ
だか、ら、・・・白なのは―――・・っ」


「待ちやがれ!
キッド!」


誰かの叫び声に我に返る。
振り向けばコナンがいた。走ってきたようで息をきらしている。
体を密着してる二人を目にし、コナンの顔色がだんだんと変わっていった。


「陽莉から離れろ!」


「おや、名探偵
お早いお着きで」


さもいま気がついたかのような口ぶりで話す。
陽莉の抱いた肩をさらに自分の方に引き寄せた

「わ・・っ」


「残念ながら見てのとおり陽莉嬢は私のものです。
離すのはできない相談ですよ?」


「え!?」


「このヤロ・・!」


こうゆうときのコナンはめんどくさい、と思う陽莉。


「おちついて!
お兄ちゃん!」


「バカやろ!
それは2人のときだろ!」

「え゛」


陽莉の言葉にキッドは耳を疑った。


「・・ちょっと待ってください。陽莉嬢
今なんと?」


「・・
えへ、忘れました」


(いまさらおせえよ!)


・・いやいやいや!
ちょ、待て!
そんな可愛い笑顔で言われても忘れられるわけねーじゃん!?
っつーか、お兄ちゃん!?弟とかじゃなくてか!?
普通逆じゃね!?
お姉ちゃんとか!
・・てかあれか?
新手のプレイか!?(違う)
とにかく信じたくねえッ


「あの・・キッド・・?」

「はっ、
・・失礼致しました
少し考え事をしてしまったようで」


「・・怪盗さんでも考え事したりするんですね」


「私も人間ですから

・・そろそろタイムリミットのようです」


なにやら屋上入り口付近が騒がしくなってきたので警察が来たのだと判断する。
キッドは陽莉の頬にキスをひとつおとし、


「ではまたお会いしましょう
陽莉嬢」


ハンググライダーを羽ばたかせ、月夜のなかに消えていった。


「・・キッド・・」


ごめんね
お兄ちゃん

私やっぱりキッドが好きだよ。


(そういえばなんで私が連れてこられたんだろ
それに名前教えてないのに)
(快斗!
どこ行ってたのよぉっ)
(・・青子、お前小学生をお兄ちゃんって呼ぶか?)(はあ!?
なに言ってんの!
そんなワケないでしょ!?)
(だよな・・)