探偵 | ナノ


それは唐突だった。


『え・・、ジン?
今なんて・・・』


「お前の中から組織の記憶を消す」


『・・本気?』



それは愛するあなたのことを忘れる、ということ。
そんなことスピリタスには耐えられなかった。
ジンは相変わらずの無表情でタバコに火をつける。
ふぅ、と息を吐けばいつもと変わらない苦い臭い。
こんな小さなことさえも忘れてしまう。



『なんで、私だけの記憶をけす、の?』


擦れた声で発する言葉を彼は聞いてくれているのか?こっちを見てさえもくれない。



『、その仕事はベルモットも行くんでしょ?』


「アイツはお前に比べたら優秀だ
どうやらお前は仲間意識が強いようだからなぁ?
変装して奴らと馴れ合ってヘマしてみろ、
・・殺すぞ?」


ジンの口からそんなこと聞きたくなかった
なんて冷たい目なの



『っ!
ジンを忘れるぐらいなら殺された方が本望だわ』


ジンの瞳に負けてしまわないようにきっ、とジンを見据えた。
早く、と言わんばかりにジンの銃に手をのばす。
だがそれはジンの手によって止められてしまった。



「これは決定事項だ
スピリタス」


『・・いや・・』


一粒の涙がスピリタスの頬をつたう。
ジンがポケットから薬を取り出しスピリタスに差し出した。



「コイツを飲め
記憶を書き換える薬だ」


あなたが好きなのに
もう届かないの?


「スピリタス」


ジンの低い声で名前を囁かれるのももう2度とない。今、触れてる唇さえも



「最後に抱かせろ」


少し離れた唇からそう言葉が洩れた。



『なんて自分勝手な男』



それでも委ねてしまう。

ねぇ、傷つけてもいいからあなたを私の体に深く刻み込んで。



『ジン、愛してる』



もう一度キスをする。

この時に薬が混じられていた。それを抵抗なくゆっくりと飲み込む。


だんだん擦れる意識の中、もう1回名前を呼んでくれる彼の声が聞こえた。