探偵 | ナノ


目が覚めるとそこにはキッドの予告上と共に、薔薇が添えてあった。

"今夜0時、満月の日とともに原石を頂に参ります。
怪盗キッド"



「うちには盗めるようなものなんかないっつの。」


一番後ろの窓側の席。
そこで頬杖をつき、窓から外を眺めながらぼそりと呟いた。大体レディの部屋に断りもなくはいるなんて言語道断。今夜もし本当に現れたのなら言ってやりたい。いったいどうやって入ったんだろう、なんて未だに不思議。



「なによぉ!
バ快斗!!」


「なんだと!
アホ子!!」


そんなやり取りが聞こえるのは毎日。もはや日課と言ってもいいだろう。


(まーた、やってるよ
中森さんと黒羽くん。)


本人達には内緒だけど実は見るのが結構楽しかったりする。


「・・・・・!」


ふとなにかに気づき、宇理は席をたち、そのまま黒羽くんの方へと歩み寄った。一度中森さんに連れられてキッドが現れる現場へ足を運ばせたことがある。暗かったし、顔もよく見えなかったから間違いかもしれない。


・・・でも。



彼はキッドに似てると思う。宇理が顔をしっかり見つめれば快斗はほんの少しだけ頬を染めた。


「・・・キッド、」


宇理がそう呟けば快斗の肩がほんの一瞬だけ、びくんと震えた気がした。それでも自分を見ることをやめない宇理に快斗はひっそりと耳打ちした。

「キッドはオメーのこと、好きだと思うぜ。」


「・・・・・!?」


突然言うから顔を真っ赤に、異常な反応を見せてしまった。


「それっ
どうゆう意味・・ッ!?」


去って行こうとする快斗にそう問えば、彼は儚げな顔をして、


「0時になれば分かるよ」


意味不明な言葉を残していった。









キッドとの約束の0時。


普段は眠くてたまらないこの時間も今日は眠くならなかった。だって彼の言葉が気になってしょうがないから。かたっとベランダから物音がしたかと思い、振り向けばそこには白い衣装を身にまとった怪盗キッドがいた


「こんばんは、宇理嬢」


「こっ、こん、ば、んは」


急に話し掛けられて戸惑ってしまう。でも不思議と緊張しない。懐かしい感じがする。キッドは突っ立っているばかりの宇理の方へと歩み、優しく抱きしめる。


「あっあの・・」


訳がわからずパニック状態の宇理。視界が白ばっかの世界。宇理もキッドの背中へとおそるおそる手をまわした。ふと上を向けば月明かりに照らされた彼の顔が見える。宇理は自分の目を疑った。


「くろ、ば、くん・・?」


間違いなく、黒羽君だった間違える筈なんかない。気づけばキッドの体を後ろへ押しやっていて。


「なん、で・・!」


「原石を頂にきました。」


キッドの喋り方をする彼。

「そん、なの、
うちになんかないもの!」


「あるじゃないですか
ここに。」


キッドに背を向けた宇理をまた優しく抱きしめる。


「・・・馬鹿にしてるの?」

冷ややかな声で、表情で、キッドを睨む。キッドはそんな宇理にバツが悪そうな顔をした。


"キッドはオメーのこと好きだぜ"


宇理の頭に、昼間言われた快斗の台詞が思い出される。不思議で仕方がなかった言葉も、キッドに感じた懐かしさも全て、全て。


「やっぱり・・私を馬鹿にしてたんだ。
からかって楽しんでたんだ!」


「!!
ちがっ」


「私っ
快斗の玩具じゃないのよ!?
あんな言葉・・そんな気もないのに・・・ッ
思い通りで満足!?」


宇理の言葉に、涙に、胸が苦しくなった。


「・・・・・はなして」


宇理は静かにそう言った。


だけどキッドは動くことなくそのままの姿勢でいる。かっとなり、宇理はキッドの腕の中から逃れようと必死にもがく。男の子の力には到底叶わなくて。


「・・・っ、・・」


なんだかどうしようもなく涙が溢れてくる。宇理は声をころすようにして涙する。キッドの手が頬に触れられて、次に唇に彼の感触。唇が離れれば、真っ赤な顔をしている彼。よく照れるなぁ、なんて考えている自分はおかしいのだろうか。


「オメーが好きだからに決まってんだろ!
離れないでくれよ・・っ」

なんて弱々しい彼の声。
この言葉は紛れもない彼の本音。


「・・・邪魔。」


シルクハットを取り、引き寄せられるように今度は宇理がキスをする。目をぱちくりさせるキッドに背を向けて、奪ったシルクハットを深く被る。


「・・・隙だらけ、なんてらしくないぞ。
怪盗さん?」


「――――・・!」


その言葉に我にかえる。





「いっ
今のなし!
もっかいしてくれ!!」


「・・!?
嫌よ!!」


I Love youをあなたに