探偵 | ナノ


「まだ帰れないって、どーゆーこと!?
新一!!」


「だからぁ、事件だっつってんだろ?」


電話越しでもはっきりと聞こえる大音量に、”新一“と呼ばれた少年は顔を歪ませた。もっとも今はある事情で体が縮み、子供の姿なので“江戸川コナン”と名乗っているが。声も違うため、博士の発明品、変声機を使って新一の声をだしている。そして、電話の相手は佐倉 宇理。新一・・もといコナンの彼女でもあり、蘭の親友でもある。久々に電話してみればこのざまだ。いきなり”会いたい”の一点張りで困り果てている。


「蘭だって心配してるんだからね!?
いっつも、いつも、いつもいつも事件のことばっかり!!」


「しゃーねーだろ!?
行く先で事件が起こるんだから。
電話してやるだけでもありがたいと・・」


「・・っ、ひ・・く・・」


小さくすすり泣く声が聞こえ、コナンは喋る声を止めた。


「なん、で・・そんなこ、と言う・・・の?
新一のばか・・!
私、が、どれだけ寂しいか・・
わかってない。」


涙でかすれた声はコナンにとっては痛いものだった。

(おいおい、マジかよ!?)

さすがに恋人の涙には弱いようで。


「泣くんじゃねーよ、宇理!」


なんとか泣き止ませようと必死になる。


「じゃあ・・キスして。
今すぐに。」


いきなりのキス発言に一瞬戸惑う。だけどそんな軽々しく”はい“なんて言える内容でもなく。宇理には困ってるようにとれたらしくてまた泣きそうな声をあげるものだから


「わーったよ!!」


なんて言ってしまった。


嬉しそうに喜びの声をあげる宇理の声を聞けば自然と笑みがこぼれた。だけどこんな(コナンの)姿じゃ会いに行けるはずもなく。やっぱり会えないと言えば間違いなく宇理には嫌われるだろう。
ここで頭をひねって考えてみる。なにかを思いついたように小さく"あぁ"と呟いた。宇理に静かにしてろ、と指示をし黙らせる。
こほん、と1つ咳払い。自分の唇を受話器に近づければ軽いリップ音が響く。

ちゅ、ちゅ、と何回も。


「・・これで我慢しろよな」

恥ずかしそうに言う声にこっちまで恥ずかしくなる。顔は耳までも赤く、宇理も1つ咳払いをし、


「・・私を好きなぶんだけキスしたら、いいよ。」


なんて言ってみせる。


「可愛いこと言うなよ・・襲いたくなる。」


「・・・っ!」


あなたになら本望だわ。


早く会えますように、と願いをこめて宇理は返事の代わりにリップ音でかえした。