●モリ→馨
ふわっと持ち上げられて驚いた。
僕だって男だし、そんな簡単に持ち上げられる軽さではないと思っていたけど、モリ先輩にそんな一般論は通用しないらしい。
「ちょ、モリ先輩?どしたの、おろしてよ」
「……………」
相変わらず無口で、何考えてるかわかんないな、と思っていると。
ぎゅっと僅かに息苦しくなった。
「………見てないから、泣くといい」
なんでわかっちゃったんだろうな、なんて思う前に、涙が自然とこぼれる。
温かいモリ先輩の腕の中で、僕の嗚咽が漏れた。
●環×馨
テーブルの上には蝋燭と豪華な料理。
シャンパンの入ったグラスを環は揺らす。
「馨、持ったか?」
「持ったよ、殿」
じゃあ始めるか、と環は言い、馨の持つグラスに自分の持つそれを軽くあてた。
「君の瞳に乾杯」
ウインク付きの使い古された気障台詞。
「……何それ」
「一度言ってみたかったんだ」
ハッハッハーと笑う環に、馨は呆れたような目を向けた。
(急に食事をしようなんて言うから、何事かと思えば……)
ああ、もう。くだらない。
馨は軽くため息をついて、グラスの中身を一気に飲み干した。
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