この街を訪れると、彼は必ずといっていいほどここにいる。
ロケットを研究しているというこの建物に。
「婚約者をおいてこんなところにいるなんて、相変わらずね」
責めているわけではない。
少しの呆れはあるけれども、彼の偏執狂は承知のうえだ。
「はは、すまない」
ガイは苦笑して応えた。
私がたいして怒っていないとわかっているだろうから、ただ微笑んですませる。
「何を考えていたの……って、聞くまでもないかしら」
「ハハハ……」
どうせ音機関の仕組みとか、ロケットについて思いを巡らせていたに違いない。
「君とロケットで旅行できたらなって考えてた」
「……………え!?」
ガイから返ってきたのは予想外の言葉で、私は思わず大袈裟に驚いてしまった。
「そんなに意外だったかい?」
ガイは苦笑した。
「いえ、あの……えぇ」
だって彼が私のことを考えて音機関を見ていたなんて、思いもしなかった。
「新婚旅行……てのは無理だけどね。生きてるうちに空のむこうにつれていってやるさ」
「生きているうちにロケットが完成する可能性は?」
「……限りなく低いだろうな」
私たちは顔を見合わせ、笑った。
「じゃあ無理じゃない。できない約束はするもんじゃないわよ」
ひとしきり笑って私が言うと、夢を見るのは自由だろう?とガイは言った。
「約束、じゃなくてさ。
一緒に夢を追い掛けないか?」
2007/08/31