メンバーの目の前に出されたのは、真っ黒な物体が入った奇妙な色のシチューらしきもの。

「……いただきます」

それぞれ青い顔をしてそれを飲み込んでいく。
腹の足しにはなるだろうか、むしろ逆に壊してしまいそうだ。
だが旅をするようになってだいぶ慣れたのか、全員胃が丈夫になったものだ。
逆に上達しない自分の料理の腕に、ナタリアはやるせない気持ちでいっぱいになった。



「料理を教えてほしい?」

ティアとアニスは声をそろえて驚いた。

「また……いきなりだねー」
「どうしたの、ナタリア」
「私、ずっと思ってましたの。私の料理下手のせいで皆に迷惑をかけていると。それが耐えられなくなっただけですわ」

瞳を潤ませてナタリアは言った。
それを聞いたアニスが「じゃあもっと早くに耐えられなくなっててよね」と呟いたのは二人の耳に届かない。

「アニス?何か言った?」
「ううん、べっつにー☆まぁナタリアだって美味しいごはん作れるようになりたいよね。料理上手は愛情上手っていうし♪」
「まぁ、そんな言葉がありますのね」
「私も初めて聞いたわ」
「でもそれなら、私は愛情下手ということなのでしょうか」

残念そうな顔をするナタリア。
アニスは笑って、そういうわけじゃないと思うと言ったが納得しない。

「そうだ!ナタリアが愛情上手か下手かはルークに聞けばわかるんじゃない?」

困ったアニスにティアが助け船を出す。
ナタリアはわずかに頬を染め、「そうですわね」と言ってルークを探すことにした。


「……ナタリア、当初の目的忘れてない?」
「……そうね」





今日の食事当番はルークだった。
ナタリア同様、料理が苦手な彼は、無難におにぎりを作る。

「もっと他に作ろうとは思わないのですか?」
「うぉっ!なんだナタリアか、びびったー」

米を握ることに集中していたルークは、後ろからいきなりかけられた声に驚き、おにぎりを落としそうになった。

「しょうがねーだろ。俺、料理下手だし」

そこでナタリアは何故自分がこの場に来たのかを思い出した。

「そうですわ。ルーク、私って愛情下手かしら?」
「……………はぁ?」

何を言いだすのか、この王女サマは。

「先程アニスが言っていたのです。料理上手は愛情上手だと」
「へー。そんなら俺も愛情下手だな」
「あら、そんなことありませんわ。私ルークの愛情を毎日ひしひしと感じていますもの」
「……………」

無意識にこんなことを言うからタチが悪い。
ルークは顔が真っ赤になった。

「そ、そっか……。俺だって、ナタリアの愛情を……その……」
「感じてくださってるの?」
「あ、あぁ」
「そう……」

よほど嬉しかったのか、ナタリアはふわりと優しく笑い、ルークの心臓はよけい高鳴った。

「まぁ、なんだ。人によるんじゃねーの。だからあんま気にすんなよ」
「……でも確かにあると思います。私も美味しいご飯をあなたに食べさせてさしあげたいですもの」


料理上手にも愛情上手にもならたいのです。







2007/08/26
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