島の一件が終着したのはついさっきのこと。
今はいつものように皆で鍋を囲み、宴会をしている。
皆が皆笑顔を浮かべ、本当によかったとアティは思う。
こんなに心から楽しい宴会はおそらく初めてで、しかしそれだけ疲れが溜まるのも早い。
カイルやソノラ、子どもたちなどの目を盗み、アティはこっそりと輪から抜け出した。
頭をすっきりさせてくれる風が吹き抜け、だが微かに寒さを感じて身震いをした。
「こんなとこにいたの、センセ」
よっとスカーレルが見張り台に上ってくる。
「ここ、お気に入りなんです」
アティがにっこり笑うと、スカーレルは「そう」と微笑んだ。
「ほら、ここからだとそれぞれの集落が見えるでしょう?」
「あら、ホント。気づかなかったわ〜」
「屋根より高いからよく見えるんです。光が綺麗で、皆が生活してるんだって思うと、守らなきゃって。だから私、今まで頑張れたんだと思います」
静かに語るアティは、プラーマを思い起こさせるように穏やかだ。
しかしそれはすぐに曇る。
「船って、いつ出るんですか」
「さあねぇ。2、3日すれば出るんじゃないかしら」
「ねぇ、スカーレル……私、やっぱり……」
「言ったでしょ。そこから先は言っちゃダメよ」
「スカーレル……っ!」
今にも泣きそうなアティの頬を撫でながらスカーレルは笑った。
「アタシなんかのことは忘れて、アナタは自由に生きなさい。今まで頑張ったんだから」
「だったらやっぱり、私はスカーレルといたい……」
「アティ……」
「好きなんです、スカーレル……」
「……………」
「センセー!なんか見えるー?」
大海原を進むカイル一家の船に、ソノラの元気な声が響く。
「特に何もー!」
アティは答え、そして海に微笑んだ。
彼のいない、
屋根より高い、見張り台で。
―――――
スカーレルもそのうちきっと戻ってきてくれるよ。
2007/08/08