「だって、皆は知ってるのに、グリューネさんだけ知らないなんて、嫌だろう?」
そう言って彼女はソレを海に流した。
ことの始まりは彼の言葉。
「クッちゃん、ワイと付きおうてくれんか」
それはとても真面目な声で、冗談とは到底思えなくて。
ただ、すぐに信じられないのは、この場に仲間全員が揃っているからだ。
「な、ななななっ何を言うんだシャンドル」
「そ、そうだぞモーゼス!冗談言うな!」
クロエとセネルが相変わらず息のあった反応を示した。
そんな二人を見て僅かにムッとしたモーゼスだが、取り乱したりはせず、真剣にクロエを見つめる。
「冗談と違う。ワイは真剣じゃ」
その眼差しを、クロエは真っ赤になって受けとめる。
「な、なにも、皆の前で言うことないだろ……」
「皆はワイらの家族じゃ。家族に黙ってコソコソするんはできん」
「ムードの問題だ!それに皆には後で知らせればいいことだろう」
「見届けてもらいたかったんじゃ」
「〜〜〜っもう!」
悪戯な、それでいて優しい笑みを浮かべるモーゼスと、これでもかといわんばかりの真っ赤な顔をして怒るクロエ。
二人のテンポ良いやりとりに、周りは置いてきぼりにされた気分になった。
「あの〜、もしもしお二人さん?」
さすがにそろそろ傍観するのも飽きてきたのか、ノーマがニヤニヤしながら手を挙げた。
「今のやりとりから察するに〜、」
少し焦らして。
「クーの返事はOKってことだよね?」
“親愛なるグリューネさんへ
お元気ですか?
こちらの皆は相も変わらず元気で、むしろ元気すぎるくらいです。
クーリッジはこの間稽古をすると言ってシャンドルを半殺しにし、シャーリィは治療と言ってゴッドブレスを唱えていました。(シャンドルはなんとか生きています。)
ノーマはトレジャーハントに皆を付き合わせては失敗を繰り返しています。
ジェイはモフモフ族と仲良く暮らしているようです。たまに街に来て顔を見せてくれます。
レイナードは騒ぐ仲間たちに毎日拳骨を送っていて大変そうです。ハリエットとはうまくやっています。
シャンドルは……
今回手紙を書くきっかけになったことですが、私はシャンドルとお付き合いをすることになりました。
皆の前で告白をしてくれたんです。
恥ずかしかったけれど、皆が祝ってくれて本当に嬉しかったです。(クーリッジとシャーリィが不機嫌そうだったけど、なんでだろう?)
私は今とても幸せです。
それをどうしてもグリューネさんにも知ってほしくて、手紙を書きました。
グリューネさんも私たちの家族なんだから。
クロエ・ヴァレンス”
「姉さんに届くとええのぅ」
「届くさ。グリューネさんは海なんだから。それに、私の幸せが詰まっているんだから」
「それにしても、クッちゃんが姉さんに手紙を書こうなんて言いだすとは思わんかったのぅ」
「だって、」
―――――
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2007/07/28