「アタシは幸せになっちゃいけないの。たとえ周りが許しても、自分が許せないのよ」

だってこの手は赤く染まりすぎている。
そう言ってスカーレルは、彼らしくない弱々しい笑みを浮かべた。

「アタシにそんな権利はないし、必要もないわ」

弱い。
弱々しいくせに、決意を込めたその瞳だけは妙に強い。
でもそれは間違いだとアティは知っていた。
彼の過去など知るわけがないし、本当にその手を血で染めてきたのだろう。
だが、だからといって幸せになってはいけないはずがない。
彼は自分の過去を、こんなにも悔いているのだから。そうするしかなかった過去を。
だがそう言っても彼は納得しないに違いない。
綺麗事、と言ってアティを拒否するばかりだ。

「ねぇスカーレル。私には幸せになる権利があるでしょうか」
「センセにないわけないじゃない。いっぱい、いっぱい皆のために頑張ってるんだから。むしろ義務だわ」
「じゃあ私、幸せになります」
「ええ」

スカーレルの微笑みに悲しみが混じったのは気のせいではないだろう。
もちろん彼を悲しませたいわけではないアティは言葉を続ける。

「でも私、あなたがいないと到底幸せになれそうにありません」

彼の瞳が見開かれた。

「協力……してもらえませんか?」

頬を染める彼女はなんと愛らしいのだろう。
しかしスカーレルは手をとるわけにはいかなかった。
自分のために、そして何より彼女のために。

「センセに協力したらアタシまで幸せになっちゃうじゃない。アタシは不幸でなくちゃならないのよ?」
「スカーレルが不幸なら、私も不幸になっちゃいますよ」
「どんな脅しよ……」

渋い顔をするスカーレルにアティは笑った。
もう彼のネガティブ思考には慣れた。あとは根本からポジティブになれる手伝いをするだけ。

「それに、スカーレルのは不幸になる権利です。私は幸せになる義務でしょう?だったら私の方を優先させてください。
私はスカーレルのことが好きです。だから私に好かれてしまった時点であなたには私を幸せにする権利も与えられているんですよ」
「センセにしては、えらく自分勝手な発言ね」
「えぇ、けっこう必死ですから」

にっこりと笑うアティ。それまで困った風だったスカーレルは思わず吹き出す。

「プッ……アハ、アハハハ」
「???」

いきなり笑いだした彼に驚き、アティは目を丸くした。

「もう……センセには適わないわね」

クスクスと肩をふるわせながら、しばらくスカーレルは笑った。それにつられてアティも笑う。

「わざわざ不幸になろうとしなくてもいいんですよ、スカーレル」

せっかく生きてるんだから、とアティはスカーレルの手を握った。

「一緒に幸せになりましょう」







2007/07/09
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