「もう、行くんですか」
暗やみに紛れて抜け出そうとしたのに、自分も腕が落ちたのだろうかとスカーレルは思った。
「よく気づいたわね、センセ」
「わかりますよ。スカーレルのことですもん」
船長であるカイルだけには言っていた。
今日、自分は船を降りる、と。
彼がアティに告げたとは考えにくい。約束は守る男だ。
ならば彼女が言ったことは本当なのだろう。
「これでさよならね、センセ」
「はい……でも、また逢えます」
その瞳が濡れているのは気のせいではないだろう。
「もう、待たなくていいのよ。いつ会えるか、わからないもの」
「でも、帰ってきてくれるんですよね?だから、待ちます」
「アティ……」
「たとえ帰ってこなくても、もう私の隣はスカーレル以外考えられないから。なんと言われようとも待ちますよ」
今にも涙が零れそうで。
健気な彼女に報いるには、どうすればいい?
「待ちます、いつまでも」
なんて愛しい存在だろう。
「わかったわ。必ず帰ってくるから……待っててね、アティ」
「はい……っ!」
ついに零れる涙。
それでも彼女は笑顔を崩さない。
頭を撫でて、抱き締めたいが、今の自分にそんな資格はない。
「行ってきます、アティ」
「いってらっしゃい、スカーレル」
どうか、貴方の生く道に幸福を
2007/06/25