「すみません。貴女のような美しい方のせっかくの誘いですが、残念ながら先約がありまして……」
「そうですの……いえ、お気になさらず」


自由行動の時にたまたま見かけたガイの姿。
ちょうど女性の誘いを断っていたところのようだ。
ただ凄いと思ったのは、本当に残念そうで優しく断り、相手にも有無を言わせないことだ。

「さすがね、ガイ」
「それは誉めてるのかい?」
「もちろんよ」

女性が去ったのを見計らって、ティアはガイに声をかけた。
ガイも意味することがわかったのか、苦笑して答える。

「まぁだてに長年女性恐怖症やってないからな。女性の誘いを断るのは慣れちまった」
「自慢にならないわね」
「まったくだ……」

一定の距離を保ちながら並んで歩く。
先約というのは断るための嘘だったのだろう。

「今までずっとそうして断ってたの?」
「まぁね……あ、でも今は一人だけ断れないな」

断るつもりがないんだけど、と付け加える。

「そうなの?」

誰だろう、と思った。
やはり立場的に主人と同様であったナタリアだろうか。それとも何となく逆らえないアニスだろうか。
誰であろうとティアの胸を突き刺す痛みは変わらない。
しかしそれは杞憂だとすぐに彼が教えてくれた。

「君からの誘いだったら、俺は喜んで行っちまうからな」

断ることなんて考えもしないさ。
ティアの頬に茜がさす。

「も、もう!またそんな冗談……!」

恥ずかしくてたまらなくなったティアは歩みを速め、ずんずんと先を行く。
鼓動もとくとくと速まっていた。


「……本当だよ」

そんなガイの呟きが聞こえた気がした。







2007/06/05
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