何もない大海原で方角を知るならば、星の位置、太陽・月の進み方などが参考になる。
船がちゃんと目的の方向に進んでいるか、常に把握するのが航海士の仕事。
しかしもう少ししたら自分は船を降りる。その時のために後釜を育てなければならない。

「……あら」

今スカーレルは見張り台にいる。
時間は夜から朝に変わろうとする頃。ちょうど右手側から赤い、まぶしい光が差した。

「センセ、ごらんなさいな」

隣でウトウトしていた緋髪の女性の肩を叩く。
彼女が次の航海士となる予定で、最近では四六時中スカーレルの傍にいる。
彼女はスカーレルの仕事ができて嬉しいと言うが、きっと心の奥では「置いていかないで」と思っているに違いない。
自惚れと言われようとも、それだけ彼女は自分のことを好いていると知っていた。

「どうしたんですか、スカーレル」

まだ眠気が残る頭で言葉を返す。

「ほら、アレ」

スカーレルが指差す先には大きな太陽。
緋髪の女性は目をぱっちりあけ、すぐにうっとりした顔になる。

「朝日……きれいですね」
「えぇ、きれいだわ。……見て」

今度は左手側を指すスカーレル。そこには今にも消えそうな白い月が水平線に沈もうとしている。

「月が……」

女性は少し寂しそうに見ていた。

「日が昇ったら月が沈み、月が昇ったら日が沈む。
……アタシたちみたいね」
「………スカーレル?」

不安そうに見つめてくる彼女。それに苦笑で答える。

「……アタシは闇の中でしか生きられないわ。ずっとそうだったし、もちろんこれからも、ね。でもアナタはおひさま。生きる世界が違うの」

その言葉が意味するものは。

「スカーレル……っ」

女性は悲痛な顔をしている。それ以上言わないで、と懇願するかのように。
それでも、もう止まるわけにはいかなかった。

「ねぇ、センセ。世界はまわるわ。
日が昇って、月が沈んで、逆もあって、その繰り返し。
この世界が何周かする間、日と月が一緒に出てるときはあるでしょ。
それでも、どちらかはすぐにいなくなるの」
「スカーレルっ!」
「今日からアナタはりっぱなカイル一家の航海士よ。だから今はアタシが去る番ね」

女性の綺麗で大きな瞳から大粒の涙が零れる。
スカーレルは彼女の頭を撫で、前髪をかきあげて、額に優しく唇をおとした。


「さようなら、アティ。

 ……だいすきよ」







―――――
ずるいスカ。

スカアティは基本悲恋です。私ん中では。
両想いでも一緒になることはないってスカは思ってる。
でも最後の最後では、何年かかるかわからんけど、幸せになるといいな。


2007/04/28
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