「何で君が泣くんだい?」
「……あなたが泣かないからよ」
中途半端に復元された屋敷を前に、二人は立っていた。
お互い少しの距離をあけて。
「……俺はここに来れてよかったと思ってるよ」
静かな笑みをたたえてガイは言う。
ティアは涙を流しながらガイを見つめた。
「もちろんここはホドのかわりにはならないし、残り香だってない。それでも、もう見ることはないと思っていた故郷を目にすることができた」
「でも、それは……」
「ああ。だからって、ヴァンのしたことを認めているわけじゃない」
じっと屋敷を見つめていたガイは、ゆっくりとティアを見やる。
「けど、君に故郷を見せてあげれた」
ティアはあっと驚いた。
彼がそんなことを考えてくれていたとは。
「ホドが消えたのは君が産まれる少し前だったから。……楽しみにしてたんだ。男の子だろうと女の子だろうと、優しくしてやって、いつも一緒に遊んであげようって。ヴァンと二人でよく話し合ってた」
「そう、なの……」
「ホドが今でも健在だったら、君と俺は、そしてヴァンは、平和な暮らしていたんだろうな……」
ティアの目からあふれていた涙は、いつのまにか消えていた。
かわりに優しい光がその目に差す。
「それでも、現実は違うわ」
ガイも笑って、「ああ、違うな」と言う。
「もしも、なんて考えたらキリがないもの」
「そうだな」
ガイはティアの手を取った。ティアは目を丸くしたが、彼の手が少し震えているのを確認すると苦笑した。
「……ホドがなくても、君と出会えたのが現実」
ティアはガイの手を握り返す。
「ホドがなくても、あなたと生きているのが現実」
そして、ヴァンを倒すためにここに来たのが現実……
「現実を見て、歩かないとな」
「ええ。私たちは生きてるんだから」
―――――
おそまつさまでした。
2007/06/24