一番古い記憶から今まで、ずっと側にいる人物がいる。
両親や使用人たちは当然として、それらとは別に“幼馴染み”という存在らしいことは、ガイに教わった。
それ以上に、“許嫁”という関係だということは、本人が口癖のように言ってくるから、嫌でも理解できた。
それがいつの間にかルークの当たり前になっていた。

『ナタリアは自分の許嫁で、常に側にいる存在である。』

やれ貴族としての責務だ、やれプロポーズの言葉がどうだ、小うるさく感じたことなんて山ほどある。
彼女と将来一緒にならなければならないなんて、とガイにもナタリア本人にも散々愚痴を溢した。
そうは言いつつも、未来を想像したとき隣にいるのは間違いなくナタリアで、彼女との結婚に違和感など少しも感じなかった。
刷り込み、というやつの一種なのかもしれない。

ナタリアはルークにとって確かに特別な女の子で、当たり前に近い存在だった。
自分が“ルーク”のレプリカで、ナタリアが本当は“メリル”であるとわかった今でも、その想いも認識も変わらない。
むしろ共に旅をしていく内に、想いはさらに増していった。
今さら離れていくなんて考えられない。
ナタリアは自分の隣で口やかましく、でも綺麗に笑うのが当然なんだ。

しかしそれを口に出すとなると難しいもので。
気安い仲だと、本心を伝えるのが気恥ずかしかったりする。
今までうざがっていた分、言いにくさは倍増。
ナタリアが“ルーク”とは別の自分を意識してくれているのはわかる。
昔からのものとはまた違う、だが確かな好意を持ってくれているのだ。
七年も近くにいたのだ。それくらいは感じ取れるし、自分の好意も相手に伝わっているはずだ。

しかし、ナタリアが言葉を求める質であることも知っている。

だからこそルークは今、咄嗟にとってしまった行動がチャンス以外の何物にも思えなくて、決意を固めた。
腕の中には驚いた顔をしたナタリアがいる。

「あ、ありがとう」

他愛ない話をしながら、ぶらぶらと散歩をしていた時だった。
足下の段に気づかず、ナタリアは体勢を崩し、ルークは急ぎ支えた。
前から肩を抱いたものだから、抱き締めているような感覚。

「……………」
「ルーク?」

体勢を整え直したので、もう支えはいらない。
それでもルークはナタリアの肩を抱いたままで、むしろ力が込められた。

「……離さない」
「え?」
「……って言ったらどうする?」

言葉にしてみたら、愛しさが急に溢れ出した。
ナタリアにずっと側にいてほしい。
今までと同様に、笑ったり、説教したり、優しく見つめたりしてほしい。
一生。
そんな想いを込めて、ぎゅっと抱き締める。
ナタリアは戸惑い、しかしすぐに頬を染め、綺麗に笑った。

「離さないでください、一生」

想いがぴたりと重なった。







2012/04/25
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