彼は暇を見つけてはいつも音機関を手にしている。
買い出しで街にでているときもそうだ。
気づけば音機関に目を奪われていて。

本当によく飽きない、と思う。
確かに音機関は便利だし、歴史的価値も高い。
だが彼のように自分で組み立てたり、見惚れたりするほどのものだろうか。
ティアはいつも不思議だった。
趣味がある、というのはとても良いことだとは思うけれど。
男の子は皆ああなのかしら、と呟けば、近くにいたルークが「ガイは特別だ」と呆れていた。

『特別』
ガイにとって音機関はそれほど特別なのだろうか。
その『特別』の対象である音機関に嫉妬だなんて馬鹿げている、とは思うが、簡単に止められるものでもない。

「本当にガイは音機関が好きなのね」

どうせ音機関に夢中になっていてガイには聞こえてないだろうが、思いの外刺々しい言い方になってしまったことに内心慌てた。
しかもばっちり聞こえていたようで、ガイはティアを振り向き、不思議そうに見つめてくる。

「なんだい?いきなり」
「……別に。改めて思っただけよ」

楽しそうに音機関を見るその姿が、目が素敵だけど、その目で自分を見ることはないのだと思うと、気分が落ち込む。
そんなティアの雰囲気を察したのか、ガイはガシガシと頭を掻き、照れたように笑った。


「なぁティア。俺は君が嫌だと言うのなら、音機関を捨てたってかまわないよ」
「え?」

いきなり何を言い出すのか、そんなこと無理だろうに。
そう思ったが、ガイは真剣だった。
その目は確かに音機関を見るときのキラキラしたものではなく、しかし普段仲間に対して向けているものとも違う。

「つまり、好きってことさ。君のことが、音機関よりもね」

そう、わかっていたのだ。
彼が自分を熱のこもった目で見てくれていることを。
それなのに陳腐な嫉妬などして、大袈裟かもしれないけれど音機関を捨てるなんて断腸の思いだろうに、そこまで言わせてしまった自分が恥ずかしい。

違う、止めてほしいわけではないのだ。

「……私は、ガイが音機関を捨てる必要はないと思うわ」
「え……」

ガイはおやっとした顔になる。
それはそうだろう。
さっきまで見え見えな嫉妬をしていた自分が、意見を逆転させたのだ。
ティアは照れたようにクスッと笑い、ガイを見つめた。

「つまり、好きってことよ。音機関好きなところも含めて貴方のことが、ね」







2009/08/12
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