いつも彼女はそこにいる。
じっとガラスの向こうを眺めて。
時間に制限がなければ、いつまでもその場に留まるに違いない。
たまに待ち合わせに遅れることだってあるのだ。

それでも声をかけないのは、俺自身、楽しそうな彼女を見ていたいからなのかもしれない。
年相応な表情をする彼女を。





シェリダンで自由行動をとることになった。
ルークはナタリアとイシターの所へオルゴールを聴きに行った。
アニスも行きたかったようだが、「二人の邪魔をするなんて野暮なことしませんよ〜」と言ってどこかへ行ってしまった。
ジェイドは「もう年ですので……」と部屋に引きこもった。
ティアは買い出しにと一足先に商店街へ向かった。

(俺も一緒に行けばよかったかな)

買い出しの量が少ないとはいえ、女性一人では大変かもしれない。
だが彼女のことだ。自分がつきあってしまったら、“あの店”に行けないだろう。
そういった意味では一人にしてあげたほうがいいのかもしれない。

(さてと。俺もそろそろ行きますか)

きっともう“あの店”に向かっているだろうから。
彼女のあの姿を見るために、ガイも商店街へ向かった。



(あぁ、ほら、やっぱり)

ガイがティアの姿をみとめたのは、女の子向けの可愛らしい小物屋だった。
彼女はぽ〜っとした表情で中にあるものに見惚れている。
そんな彼女の姿を、ガイは少し離れたところで見る。
決して声はかけない。
自分がいることに気がつかれたら、きっと彼女は逃げてしまうから。
そんな勿体ないこと、できるわけがない。
見てるだけで満足。

だけど、
こっちを見てほしい、と少なからず思うわけで。
その表情を自分に向けてほしい、と。


「………ティア」

惚けていたティアは、とても聞き覚えのある声にびくりと肩を震わせ、ガイの方をむいた。

「ガ、ガイ……!?」
「ははっ、凄い驚きようだな」
「だ、だって……!」

ティアはちらっと小物屋のウィンドウを見、すぐに赤くなって俯いた。
ガイは微笑ましい彼女の行動に目を細め、優しく笑う。

「このぬいぐるみ、見てたのか?」
「ち、違うの!違うわ!似合わないし!だって、私似合わないもの!」

パニックに陥っているのか、ティアは同じ言葉を何度も繰り返して否定した。
その様子を見て思わず吹き出してしまったガイに、さらに真っ赤になって涙目で俯く。

「ああ、すまない。君があまりにも可愛い反応をするもんだから、ついね」

その台詞でまたティアが赤くなるのをわかっているのかいないのか。ガイはさらっと気障ったらしい言葉を口にする。
案の定、ティアの顔はこれでもかというくらい真っ赤だ。

「もう……そんなこと言って……」
「それに、ティアには可愛いものがよく似合うよ」
「……えっ」
「可愛いもの、好きなんだろう?隠すことなんてないさ」
「何で……」

気付いてたの?と目線で問い掛ける。
それを受けてガイはやはり微笑んだまま。


「ずっと見てたからね」


出会ったときから、ずっと。
この町に来てから、ずっと。
この店の前で見かけてから、ずっと。


その言葉に対してか、見られていた事実に対してか。
おそらく両方の理由でティアは惚けたようにガイを見つめた。


―彼には適わない


そう思わずにはいられなかった。


「ずっと、君のことを」


ああ、なんて甘美な響きなのかしら……
ああ、なんて甘い笑顔なのかしら……

可愛いものを見るのはもちろん好きだが、彼のこの顔には負けるかもしれない。
そうティアは思い、やはり恥ずかしくなって顔を俯かせるのだった。







2006/12/17
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