「もっと近くに来てくれないか」
そう言われてドキッとして。
「うわっ……ご、ごめん、やっぱ、も、もう少し、離れ……」
そう言われてしゅんとして。
「ははっ。やっぱまだまだダメだなぁ……」
ただ女性恐怖症を治すための訓練で。
「悪いな、ティア。こんなことに付き合わせて」
私を選んでくれたのが嬉しくて。
「この調子じゃあ、いつまでかかることやら……」
この訓練が永遠に続けばいいなんて思わない。
「そんな弱気じゃダメよ。治すんでしょう?女性恐怖症を」
「そうだな。このままじゃさすがに辛いし」
「大丈夫よ。頑張れば触れる程度にはなったのだから。すぐに克服できるわ」
「そうだな」
それに治してもらわないと、私に触れてもらえない。
それは困るわ。悲しいわ。
「ん?何か言ったかい?」
「いいえ。何でもないわ。さ、続けましょう」
今は「離れて」と言われても我慢するから。
「そうだな。早く君に自然に触れられるようになりたいからね」
ああ、気障ね。
私の体を言葉一つで簡単に熱くして。
「よし。じゃあもう一度近くに来てくれるかい」
早く克服してね。
訓練なんかじゃなくて、貴方が心から私に近くに来てほしいと言えるくらい。
私が遠慮せずに抱きつくことができるくらいに。
2006/08/03