水上の帝都グランコクマ。
街の至る所に水が通っており、とても美しい。
たまたまこの街に用事があって
たまたまそれが陛下への手紙を届けるためであって
たまたま陛下に「顔を見せてやったらどうだ」と言われて
「で、来てくれたってワケだ?」
「ええ、そうよ」
久しく会ってなかった少し前まで戦友だった彼、ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。
嬉しそうな彼に対して素っ気無く答える彼女、メシュティアリカ・アウラ・フェンデ。
「そっか。まぁ、ゆっくりして行けよ」
ティアのそんな態度など気にもせず、ガイはお茶でも出すよ、と言って席を立つ。
手伝うわ、と言ったティアに、お客さまにそんなことさせられないよ、とガイは笑った。
することがなくて所在無く感じるティアは、ガイの後姿をぼうっと見つめ、くすっと笑う。
「どうしたんだい?」
ティアの小さな笑いに気づいたガイは振り向いて首を傾げた。
「ふふっ。あなた、貴族なのに自分でお茶を入れるなんて。使用人気質は健在なのね」
ガイは一瞬きょとんとした後、そうだなと苦笑い。
少しも変わらない彼に懐かしさを覚えて、久しぶりすぎて少しぎこちなかった雰囲気が和んでいくのを感じた。
それから数時間、自分たちや周囲の近況から他愛も無いお喋りまで、たくさんのことを話し、楽しい時間を二人で過ごした。
だが楽しい時間というのは過ぎていくのが早いもので。
「あ……そろそろ行くわね」
時間がきたことに気づいたティアは名残惜しそうに告げた。
「また来てくれよ。君の顔を見るだけで疲れが吹き飛ぶからさ」
「もう、ガイったら……。大佐たちの相手は大変?」
ガイの素で気障な台詞に頬を染めながら、照れさせられた仕返しにと意地悪そうにたずねる。
するとガイは心底疲れた顔をした。
「大変も何も……マジで扱き使いやがるからな。たまったもんじゃないよ。たまには俺も息抜きしないと倒れちまう」
「ふふっ。じゃあ用事があったらついでに寄るわ」
「ついで、か……。ひどいなぁ、ティア」
肩を竦めるガイに、楽しそうに笑うティア。
しかし、これ以上長居をしたら帰れなくなってしまいそうで。
ティアは無理矢理「じゃあね」と笑顔をつくり、扉のノブに手をかけた。
「ティア!」
突然の呼びかけに、驚いて振り返る。
呼びかけた張本人はニヤニヤして。
「本当は用事なんて建前で、俺に会いに来たんだろう?」
その台詞にティアは茹でダコのように真っ赤になり、
「〜〜〜バカっ!!」
と叫んで、バタンと豪快な音をたてて扉を閉めた。
その言動と真っ赤な顔で、図星だったんだとガイは悟り、心底嬉しそうに微笑んだ。
2006/07/22