「逃げてしまおうか」
枯れるほど流した私の涙を拭いながら、彼は言った。
「なにも、実の兄と戦うことなんてないよ。俺にとっても大事な幼馴染みだ。できることなら戦いたくない」
「でも……」
「君だって嫌だろう?逃げちまえばいいのさ。二人でどこか遠くに。そして世界が終わるまで、短い間でも幸せに暮らそう」
その顔は悲しそうで、切なそうで。
馬鹿ね。そんなことできるわけがないって、わかってるくせに。
「本当にそうして、幸せを感じることなんてできないでしょう?あなたも、私も」
逃げることなんて許されない。
世界の命運とかは関係なくて、たった一人の肉親を止める役割から逃げたくないわ。
「そうだな。でも心のどこかで、逃げれたらいいのにと思ってることは確かだよ」
そうできたなら、どれだけ苦しいでしょう。
2012/4/11
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