今夜は宿でゆっくり休もう。
そう提案したのはライラだったかミクリオだったか。
なんの反対意見もないあたり、天族というのは皆察しが良いのかと、スレイは苦笑した。
水の都レディレイク。ここにはアリーシャがいる。
スレイの小さく芽生えていた恋心など、仲間たちにはバレバレで、ロゼにすら「アリーシャに会ってきなよ!」と言われる始末。
感情がすぐに表に出る性質はイズチにいる頃から散々からかわれ、しかしこれも個性と割りきっていたものだが、こと恋愛となるとこれ程恥ずかしいことはない。
早く行け恥ずかしいのか照れちゃってかわいいもんねなどと仲間たちの囃す声を背に、スレイは逃げるように宿を出た。
熱い
そんな経緯を話すと、アリーシャは目に浮かぶようだとクスクス笑う。
自分の話で彼女を笑顔にできたことが嬉しくて、スレイは向かい合っていた席を立ち、アリーシャの隣に座った。
大好きな笑顔を近くで見たい、少しでも彼女のぬくもりを感じたいと、肩が触れるほど。
「なんだか意外だな」
「何が?」
「君がこんなにくっつきたがりだとは思わなかった」
「うん、アリーシャ限定でね」
そう言って彼女の肩に頭を乗せる。
ピクリと反応したその肩は、スレイを拒絶することはなかった。
ちらっと顔を見上げると、アリーシャは頬を赤く染め、穏やかに目を閉じていた。それがとても幸せそうに見えて、なんだか熱い、とスレイは顔を手で隠す。
アリーシャの反応一つ一つが、スレイの熱を上げる。
「ホント、かわいいなぁ」
たまらなくなって、頭を擦り付けながら何気なく呟いた言葉は、近すぎる距離にいるアリーシャの耳にしっかり届いて。
美味しそうに色づいたその耳を、スレイは甘く食んだ。
「す、スレイ!?」
「は!ご、ごめん!美味しそうで、つい」
「お、おいし……」
赤い顔がなおも染まって、つられてスレイも真っ赤になる。
何をしでかすかわからないほど熱に浮かされた自分を叱咤しながらも、もっと彼女を味わいたかっただなんて。意識をしてしまうと、とてもじゃないが実行するなどできない。
考えただけで、顔だけじゃなく、身体全体が燃えるようだ。
「熱いな……」
「私も、熱い」
けれどお互いに離れることは考えもせず、気の利いたことを言うでもなく、ただただ熱い体温を分けあう。
(この熱を、いつでも傍で感じていたいのに)
叶えることなどできなくても、願わずにはいられなかった。
2015/02/08