テントの中は薄暗く、外から入ってくる焚き火の明かりで中の様子がわかるほど。
たまに聞こえるパチパチと火の爆ぜる音が耳に心地よい。
今日はセシルが火の番だったかな、とウトウトしながら思い出す。





幼く健気な彼女と僕たち






「ギルお兄ちゃん……」
「リディア?まだ起きていたの?」

僅かな衣擦れとリディアの声に、重くなりつつある目を開ける。
目の前には心細そうなリディアの顔。

「どうしたの?眠れないのかい?」
「うん……」
「……こっち、おいで」

この幼い少女を支配する寂しさを見ていられなくて、自分の寝袋に彼女を誘う。
おずおずと入ってきたリディアは、やはり小さい。
この小さな体に、どれだけの負の感情をしまいこんでいるのか。
そう考えるだけで、泣きそうになった。

抱き締めて、頭を撫でてやると、ホッと息をつくのがわかる。

僕たちは同じだ、と思う。
精神的な強さはまったく違うけれど、お互い大切な人を失った。
セシルだって辛い思いをしてきただろう。
目の前で人の死を何度も見てきたはずだ。
同じ、なんだ。
だから支えあうこともできる。

「ギルお兄ちゃん」
「なんだい?」
「お兄ちゃんは、あったかいね」
「うん。リディアもね」

生きているからね。
そうは口に出さず、ぎゅっと抱き締める腕に力を込める。
この子は、冷たくなった人の温度を知っているのだ。
リディアは痛いよ、とくすくす笑う。
その笑顔は本当にあたたかい。
僕もセシルも、この笑顔に何度も救われた。
国やアンナとはまた別の、守るべきもの。

以前、セシルと話したことがある。

「本当は、僕は許されなくたってかまわないんだ。恨むことで、あの子の生きる活力になるのなら」
「それでも、リディアは笑いかけてくれる。僕たち大人に気をつかわせまいと」
「そしてその笑顔に救われているのは事実なんだ」
「僕の方がしっかりしないといけないのに、リディアに助けられてばかりだ」
「だから、リディアみたいな子どもたちが、安心して笑える世界にするために、僕は頑張るよ」

セシルは本当にリディアを愛しているのだなと思った。
血の繋がった親子よりも、深く深く。
だが僕とて、彼女を想う気持ちは負けていない。
セシルがリディアの歩く道を拓いていくなら、僕は後ろから支える役を買おうじゃないか。

「リディア。よく眠れるように」

耳元で、小さく子守唄を紡ぐ。
リディアは嬉しそうに目を細め、静かに眠りについていった。







2011/11/12
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