彼女を自分とは縁のない人と思ったことはなかった。
自分は紅の旋風の一員で、彼女の属するアマバトとは切っても切り放せない関係だ。
今回のことがなかったとしても、いずれ何らかの形で出会っていたのだろう。

そう、距離も関係も、近いと言えば近いのだ。
なのに何故、自分は彼女を“遠い”と感じるのだろうか。





君への距離の縮め方





ジャスティーナは別段“高嶺の花”というわけではない。あの可愛らしい容姿と簡単に人を寄せ付けない雰囲気は、そうなる可能性を多分に含んではいるのだけれど。

「……………」

こうして目の前で無防備に居眠りをしていても、“近い”と感じない。
寝顔すらもどこか研ぎ澄まされているように思うのは、きっと自分の目の錯覚で、自分は彼女を美化しているのかもしれない。
実際は年相応にあどけない表情で眠るジャスティーナを見つめ、アゼルは大きく息を吐いた。

似たような気持ちをアゼルはよく知っていた。
自分が尊敬してやまないカリンツに対してのものだ。
彼の性質、カリスマに惹かれる人間は数多だろうが、その中でも自分が一番カリンツを尊敬しているのだという自信をアゼルは持っていた。
ジャスティーナに対するものはその気持ちに似ているようで、しかし全く異なるもの。
その気持ちは何という名前か、などと問うことはしない。
アゼルとて年頃の男である。
戦いづけの毎日とはいえ、それなりに甘酸っぱい経験もしてきた。

(僕はジャスティーナが好きなんだ)

一度自覚すると急速に膨れ上がるそれは、自分で止めることなど不可能に近い。
それなのに彼女が遠すぎて、触れることすらできない。

眠る彼女の髪を撫でることもできない自分を叱咤する。
“遠い”からといって、近づく努力をしなければ何も変わらないのだ。

意を決して手を伸ばした。
ゆっくり、ゆっくり、慎重に。

(僕って結構……勇敢だ)

白く柔らかそうな頬に届く。
髪にすら触れることを恐れていた自分が、いきなり頬に手を伸ばしている。
彼女への想いの強さ故の大胆さか。

指先が頬に触れた。
自分とそう変わらない体温のはずなのに、やけにジンジンと熱い。
このままでは火傷を負って、剣が握れなくなってしまう。
それは困る、と一人焦ったアゼルは手を戻そうとしたが、それは叶わなかった。
柔らかく熱いものが自分の手を掴んでいる。
ぎょっと目を剥くと、ジャスティーナがぱっちりと目を開けてこちらを見ていた。

「何を……しているの?」

頬の赤は怒りからか、それとも照れからか。
後者だと嬉しいが、どちらにせよそれもまた美しい。

「アゼルさん?」

彼女に見惚れて、受け答えを忘れていた。
しかし何してると問われても、触ろうとしていたなどとはどうにも答えにくい。

「あ、えっと……」
「……遠くなんか、ない」
「え?」
「私はあなたから、遠くなんかないのよ。だから、触れてくださって結構」

あぁ何故彼女は自分の悩みをあっさり見抜いてしまうのだろう。

(巫女、だからかな?やっぱり“遠い”……)
「何を言ってるの。あなたさっきから全部声に出てるのよ」
「……………」
「……………」
「ええっっ!?」

アゼルは爆発した。
声に出ていたということは、つまり全てを聞かれていたということで、そもそも彼女は眠ってなどいなかったのか。
恥ずかしい、なんてものではない。

「じゃ、じゃあ、僕の気持ちとか……!」
「えぇ、あなたが自分の口で言ってくださいましたわね」
「……………!!」

今すぐ穴を掘ってでも埋まりたい。
しかしその手はジャスティーナにしっかりと握られている。
あぁそうだ、触れることを許されたのだった。
そう気づくと、更に熱が上がる。
ジャスティーナはアゼルの手を自分の頬にあて目を閉じた。

「触れて……ください。もっと……」

これは夢か、幻か。
否、この熱すぎる体温はどちらのものか―両方かもしれないが、幻などではない。
彼女の望み通りもっと触れると、自分は全焼してしまうかもしれない。
それでもせっかく許しを得たのだから、と欲が勢いよく溢れてくる。
もう“遠い”などと気にしていられない。
彼女が自分と同じ想いならば、気にするだけ無駄なのだ。

アゼルは一つ息をつき、頬から後頭部へ手を移動させ、ジャスティーナを自分の胸に引き寄せた。






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フリリクでミソノ様に捧げます。

2009/08/25

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