日が昇る前に起床し、簡単な朝食を摂りながら午前のうちにすまさなければならない仕事に目を通す。
それが終われば街中の見廻り。
一周する頃にはちょうど昼になっていて、いつからか彼女が当たり前に来るようになっていた。





スマイルランチ





こんにちは、と駐在所に声が響く。
だが返事はおろか、人の動く気配すらない。
入り口から覗いてみても、軍人である彼の姿はなかった。
まだ見廻りを終えていないのかもしれない。
勝手に入るのはさすがに憚られたがここで立ち往生するわけにもいかず、少し迷った挙げ句、ミントは中に入った。
とはいえ最近ではよく訪れていたので、勝手知ったる駐在所である。
ミントは真っ直ぐ炊事場へ行き、持ってきたものをバスケットから取り出していった。
今朝採れたばかりの新鮮な野菜に卵、数種類のハーブなどなど。
今日はオムライスとサラダにしよう、とミントは調理を開始した。



いつからか日課となった昼食作り。
グラッドはたいていライの店で食事をしており、しかし忙しいときはそんな時間はなく、まともな食事ができないこともあると聞き、それならばとミントが申し出たのがきっかけだった。
料理の腕はライに劣るものの、それなりのものだと自負している。
なによりグラッドの体調が心配だった。
ミントがそう言ったのを聞いたグラッドは見事に顔を真っ赤にし、「よ、よよよよろしくお願いします!」と、どもりにどもっていた。



あとは卵を焼いて盛り付けるだけ。
そろそろ戻ってくる頃かと思って外に出てみると、ちょうど彼の姿を見つけた。
傍らには一人の老婆がおり、どうやら目的地まで送ってあげていたようだ。
礼を言う老婆に優しい笑顔で応えるグラッドを見て、ミントの頬も自然と弛む。

「あ、ミントさん。こんにちは」

ミントの姿を認めたグラッドは、照れたように笑った。

「こんにちは。もうすぐできるんで、座って待っていてくださいね」

はい!と返事をするグラッドに笑顔を残し、ミントは炊事場に戻った。
卵を焼きながらちらりと様子を窺うと、彼は言われた通りに座って、真剣に何かの資料に目を通していた。

(なんだか、夫婦みたい……)

今の自分が仕事をする夫のために昼食を作る妻のように思えて、ミントは少し頬を赤らめた。



どうぞ、と差し出されたのは、美味しそうな匂いを湯気に纏ったオムライス。
そして種類豊富な野菜サラダ。
グラッドの腹はちょうど良い具合に空いており、視覚から嗅覚から刺激される。

「いただきます」

スプーンを入れ、一口。
ふわふわ卵の風味が口の中でとろりと広がる。
チキンライスとのハーモニーがたまらない。
これはライのオムライスよりも美味しいと言ったら彼は拗ねるだろうなと思うとおかしくなった。
だが事実彼のよりも美味しいと思う。
なんといっても目の前に座り、同じようにオムライスを食べる彼女―ミントの手作りである。
それが最高の調味料だ。

「すごく美味しいです!」
「よかった。たくさん食べてくださいね」

彼女の笑顔もさらに料理を美味しくさせる。



食事を終えると、いつの間に淹れたのか、ミントはお茶を出した。

「レモンバームのハーブティーです」
「レモン……すっぱいんですか」
「飲んでみてください」

グラッドはとりあえずカップを持ち上げた。
香りは確かにレモンだ。
ふぅふぅと少し冷ましてから口につける。
ふわっと広がるその味に酸味はない。

「あ、甘いですね。体が芯から温まる気がします」
「リラックス効果があるんですよ。グラッドさん、毎日お仕事頑張ってますから」

ご褒美です、と言ってにこりと笑うミントがとても綺麗で、グラッドはどぎまぎした。
思っていたよりも疲れていたらしい体は確かにリラックスしたようだが、彼女の一挙一動に反応する限り、心休まることはないなと照れ笑う。

(こんな穏やかな昼を過ごせるのなら、もちろん大歓迎だけどな)







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フリリクで七海様に捧げます。

2008/11/23

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