全てが終わった、とリディアは思った。
ゼロムスは無に還り、フースーヤとゴルベーザも眠りについた。
後は自分たちを待つ皆の元へ帰るだけ。

魔導船はゆっくりと浮かび上がり、月面から次第に離れて行く。
長くいたわけでもないのに少しだけ名残惜しく思うのは、月の民の意識を感じるからだろうか。

ご苦労様。
よく頑張ったね。

聞こえるはずのない言葉が心の中にスッと入っていくような気がした。



だんだんと小さくなる月を見ながら、リディアは溜め息をついた。
全てが終わった。
そう、終わったのだ。

それは共に戦った仲間との別れが近づいてきているということ。





さて、お別れです





ひとまずミシディアに降り立ったセシルたちは、魔導船の封印を見守った。
今晩は祝宴を開くとのこと。
本来ならば一刻も早く故郷へと帰るのが一番なのだろうが、疲れているのもあり、それよりもお互い別れがたいという思いが強く、一晩この村で過ごすことにする。


いつもは静かな村だが、今日ばかりは別らしい。
平和が訪れたことに対する喜びがひしひしと感じられる。
村中に広がる笑顔がリディアには嬉しかった。
それでもどこか気持ちが浮かないのは、決意をしてしまっているからだろうか。


「リディア!」

いつの間にか村の外れにまで来ていたらしいリディアは、木の根元に腰かけたまま自分を呼ぶエッジに気づいた。
その姿を見るとことさら切なくなったが、無理矢理でも笑顔をつくる。

「何してるの?」
「そりゃこっちのセリフだ。てっきり連中と盛り上がってんのかと思ったぜ」
「それこそこっちのセリフだよー」

二人は笑いあうと、しかしすぐに黙った。
リディアはボーッと空を見つめる。
隣で若干そわそわしているエッジに、もう少し落ち着けばいいのにと思いながらも、彼が何を気にしているのかはわかっていた。
ただ自分から答えをあげることはしない。

「……お前、これからどうすんの」

沈黙に耐えかねたのか、聞く決心がついたのか、どっちだろうとどうでもいいことを考えながらリディアは答える。

「幻界に帰るよ」

ちらっとエッジを見ると、やっぱりなと寂しそうな顔をしていた。
胸がざわつく。

「そんな顔しないでよ。一生会えなくなるわけじゃないんだから」
「ん、あぁ……」

幻界に帰るというのは決戦前から、否、きっと幻界を出たときから決めていた。
あそこは自分をいつでも温かく迎えてくれる。
とても居心地の良い世界だ。
だからといってこの世界を離れるのが辛くないわけではない。
皆と別れるのは寂しいし、この青い空を見れなくなるのも残念だ。

だがそれは僅かなセンチメンタルを呼び起こすだけ。
先程エッジに言ったように、一生のお別れというわけではないのだ。

「ずっと向こうにいるつもりか?」
「それはわかんないよ。たまには遊びに来るつもりだし、復興のお手伝いとかもしたいし。ひとまず幻界に帰るってことしか決めてないの」

ホッとエッジの肩の力が抜けたのを感じた。

「……あっちって時間の流れが違うんだったよな」
「うん、そうよ」
「オメーがおばちゃんになるまでどんくらいかかんだ?」
「さあ?でもそうかからないと思うよ。エッジなんてあっという間に追い越しちゃうだろうね」
「……………」

ふとエッジが黙った。
何かを思案しているようで、だがその何かが検討もつかないリディアは、相変わらず何考えてるかわからない王子さまだな〜と思っていた。
端から見たら彼ほどわかりやすい人間もいないのだが。

「……なぁ」
「ん?」
「オメーが今の俺くらいの年になったらな」
「うん」
「俺に会いにエブラーナに来い」
「うん、いいよ」
「それまでに俺、立派な王様になってるからよ」
「うん、楽しみにしてるね」

エッジの言葉に含まれた意味などリディアは気づきもせず、ただにこにこと頷く。

切ない、切ない。
皆と、彼と別れるのが。
あぁでも次に会うときがとても楽しみ。
彼が立派になる過程を見ることができないのは残念だけれど、あっと驚かされるのも悪くない。

「じゃあ私も、エッジが驚くほどいい女になってみせるからね!」

はっきりとした目標のできたリディアが憂いを捨て去った笑顔を見せると、エッジは照れたようにそっぽを向いて頷いた。







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フリリクで佐崎カナコ様に捧げます。

2008/10/05
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