月の光を反射して
サラサラと風になびくそれが
とても綺麗だと感じたの





月明かりの下で





お風呂で汗を流して心も体もさっぱりしたルウは、なんとなく風にあたりたくなってテラスへ出た。
そこには先客がいて、椅子に腰掛けて街を見下ろすその姿に見惚れてしまった。
ずっと見ていたいけれど、近づいてもみたい。
気配に敏感な彼だから、一歩踏み出せばきっと自分だと気づくだろう。
むしろ気づいてほしい。
ルウは息を潜めて一歩だけ前に進んだ。
彼はゆっくりと振り向く。

「やぁ、ルウ」

彼の後ろには明るく輝く月。
逆光で表情はわからない。
でもその優しい声音から、きっと美しく微笑んでいるに違いないとルウは思った。

「どうしたんだ、こんな夜に」
「なんとなく風にあたりたくなったの。イオスこそ」
「僕もだ」

同じことを考えていたのが嬉しくて、ニコニコと笑いながら彼とテーブルを挟んだ椅子に座る。
ここからだと彼の顔がはっきり見えて、さらに嬉しくなる。
何故ルウが笑っているのかなんてわからないだろうに、彼は優しくルウを見つめていた。

「風呂に入ってたのか」
「え、すごい!なんでわかったの!?」
「髪、まだ少し濡れてるよ」

クスクスと笑いながら彼の手がルウの髪にのびた。
その過程の間に手が頬にも軽く触れて、ルウの体はピクリと震え、心臓がドキリと脈打つ。

「……イオス、手冷たいよ。いつからいたの?」
「一時間くらいだと思うけど」
「わ、長いね」
「そうか?考え事してたらすぐだよ」
「考え事?」
「あ、いや、大したことじゃないけどね」

彼の目元が僅かに色づいた気がしたが、ルウは特に追求しなかった。
それよりも、まだルウの髪を撫でる彼の手が気になって仕方がない。
動悸は早まる一方だ。

彼は不意にルウの髪の一房を取り、スルリと手の上を滑らせた。
白い指からパラッとこぼれるそれがとても美しく見えて、ルウは自分の髪が誇らしく思えた。

「ルウの髪、綺麗だな」
「そ、そうかな」
「少し濡れて艶があるときとか、こうして僕の手から落ちるときとか、特にすごくそそられる」
「う、わっ……あ、ありがと」

なんの恥ずかしげもなく言う彼の言葉に、恥ずかしくなってルウの体温があがる。
だが俯いてしまうのは勿体無い気がして、彼の髪に視線を移した。
月に負けない美しさを湛えたそれは、きっと誰をも魅了する。

「ルウは、イオスの髪の方が綺麗だと思うな。キラキラしてて、とっても綺麗」

今度はルウが彼の髪に触れようとする。
しかしそれは彼に手を掴まれることで阻まれた。

「ありがとう。じゃあルウ、お互いの髪がもっと綺麗になる方法ってわかる?」
「え?うーん、お手入れをちゃんとする?」
「それは普通のことだろう」

楽しそうに彼は笑う。
結局わからなくて、ルウは降参だと苦笑った。

すると、彼はルウの手をひいた。
腰を浮かして机に空いている片方の手をつき、前のめりの態勢になる。
彼はルウの額に自分のそれをくっつけた。
あまりに近い彼の顔に怖じ気づき思わず離れようとしたが、すぐに気づいた。

金と黒が織り成すコントラスト。

彼とルウの髪が混ざりあっていて、それはそれはとても美しかった。

「こうすると、一層綺麗だろ?」
「うん……とっても素敵!」

ルウは嬉しくなった。
嬉しくて嬉しくて仕方がなくて、彼の首に抱きつく。

「イオスと一緒なら、ルウの髪はとても綺麗になるのね」
「僕がいなくてもルウの髪は綺麗だよ」

なんだか照れくさくて、可笑しくなって、ルウはクスクスと笑った。
彼も笑う。


月明かりを受けた相手の髪に、お互いが口付けを落とした。







―――――
フリリクで飛鳥様に捧げます。

2008/08/01
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -