「バカは風邪ひかないというのは迷信だったと証明されたな」
「言うことかいてそれかよ……!」





お口を開けて





エドワード・ジェラルダインは十数年ぶりに風邪菌とやらに負けた。
体は丈夫な方だったし、忍者という職業柄、風邪をひくなどもってのほかだった。
だから正直戸惑っている。
体は熱いようで寒いし、手足はダルくて動かせないし、よくわからない切なさが込み上げてくるし。
しかしカインの嫌味はいつものこととしても、仲間が全員優しくしてくれるということに一番戸惑っていた。

「エッジ、タオル替えるよ」
「エッジ、何か食べたいものある?」
「着替えを手伝ってやるぞ、王子様」

これは何のドッキリだ?
新手の嫌がらせか何かか?
このメンバーに優しくされることに慣れていないエッジは、悲しいかな素直に受け取れない性質になっていた。
それでも昼頃になるとさすがに何の裏もないのだということを理解し、ゆっくりと甘えさせてもらう状態になった。

だが一つ気になることがある。
リディアが朝から一度も顔を見せていないのだ。
一番会いたい人物に会えていない。
彼女の笑顔を見たら、それだけで元気になれるというのに。
自分のことを気にも留めていないのだろうか。
そう考えてしまうと、どんどん悪い方に思考が進んでしまい、ただでさえ弱っている心がボロボロとなってしまった。
頭が痛くなり、体も朝より辛くなってきた気がする。
病は気からというのは本当かもしれない、とエッジは思わず泣きそうになった。

コンコン

軽くノックの音がした。
エッジは「はいよ」と気のない返事をする。
恐る恐る開いた扉の向こうにはリディアの姿。
どうせ彼女の保護者どもが来たのだろうと思っていたエッジは驚いて、慌てて体を起こした。
と同時に頭に鈍い痛みがはしる。

「わっ急に起きちゃダメだよ、エッジ!」
「お、おう。悪い」

リディアは手に持っていたトレーを近くのテーブルに置き、エッジの体を支えた。
格好悪いと思いながらも、あまりに近いリディアに、顔が熱くなるのがわかった。
これでも女性経験はあったし、別に初めての恋というわけではないのに、彼女が相手だとどうにも調子が狂う。
自分から触れるのは平気でも、リディアから触れられると妙にドギマギするのだ。

「大丈夫?」
「ああ」

痛みが落ち着いたのを見計らって、リディアはエッジから離れた。

「それよりオメー、朝から顔見せなかったろ。こっちはこんなに弱ってるっつーのに冷たいやつだな」
「む。朝来なかったのは悪かったけど、私ずっとエッジのために頑張ってたのよ」

失礼ね、とリディアはぷんぷんと怒るフリをした。
さすがに本気で病人を怒るようなことはしない。
そんなことよりエッジは自分のために頑張ってたという言葉の意味が気になった。
不思議そうなエッジの様子に、ふわっとリディアは笑い、テーブルに置いたトレーを取った。

「お粥作ったの。食べれる?」

それはほかほかと湯気をあげる卵粥。
たいして料理が得意なわけではないリディアがエッジのために頑張って作ったというお粥。

「もちろんいただきます!」

エッジは思い切り頷いた。
頭に痛みがはしったが、そんなこと気にしていられない。
リディアが朝から頑張って作ったお粥。
いわば愛の塊があるのだ。

思ったよりも元気そうなエッジに安心した微笑みを送り、リディアはベッドの脇の椅子に座ってスプーンを取った。
一すくいの粥をフーフーと息で冷まし、エッジの口許に持っていく。
そしてその言葉を口にした。

「はい、エッジ。あーん」

エッジの頭の中でその言葉が木霊する。

あーん?
あーんってなんだ?
もしやこれはラブラブな恋人たちにお約束の、食べさせてあ・げ・る♪というやつか?
いやいやまさか。
いくら風邪をひいてるからとはいえ、リディアがそこまでしてくれるなんて!?
きっと幻聴だ幻覚だ。
風邪で頭おかしくなってるんだ。
落ち着けオレ!

「エッジ?何ボケッとしてるの?ほら、あーんして」
「幻じゃない!?」
「は?」

いきなりの大声にリディアは目を丸くする。
そしてなかなか食べようとしないエッジに痺れをきらしたのか、不快そうに眉をひそめた。

「ねぇ、いらないの?」
「いやいや!いる!食う!」
「じゃあ早く口開けなさいよ」
「お、おう!」

エッジは若干緊張しながらも口を開けた。
リディアの持つスプーンがそこに入り、熱すぎないお粥がするりと舌に乗った。
優しい味が口内に広がる。

「スッゲーうまい」

エッジは弛む頬を隠しもせずそう言った。
そこから嬉しさを感じたのだろう。
リディアもホッと一息ついて笑う。

「よかった。いっぱい食べてね」
「おう!」


こんな幸せな時間を過ごせるだなんて。
たまには風邪をひくのもいいかもしれない、と思ったエッジだった。







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フリリクでれお様に捧げます。

2008/06/26
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