メシュティアリカが恋をした。
そんな噂が流れてきたのはどこからだったろうか。
あぁそうだ。
マリィベル姉上が言っておられたのだ。
「ど、どうかなさいましたか?ガイラルディア様」
突き刺さる視線に耐えられなくなったティアは気まずそうに尋ねた。
それに対してガイはきょとんとする。
「え、何が?」
「何って……さっきから私のことを睨むように見ているじゃないですか」
「に、睨んでなんかないよ!」
ガイは慌ててその場から離れた。
結局何がなんだかさっぱりなティアは、ぽかんとするしかなかった。
しばらくして我に返ったティアは、やはり先ほどの態度が気になってガイを探していた。
廊下をできるだけ静かに走る。
すると後ろから聞きなれた声がした。
「こら、メシュティアリカ。廊下を走るんじゃない」
「兄さん!ごめんなさい急いでたから。ガイラルディア様を見なかった?」
ガイの名が出た瞬間にヴァンの眉がぴくりと動いた。
心なしか動きもそわそわする。
「あーいや、見てないが。ガイラルディア様がどうかしたのか?」
「それが……」
ティアはヴァンに先ほどのガイの態度について説明した。
「あぁ……」
心中お察ししますガイラルディア様、と遠い目をする兄に、やはりティアは首をかしげた。
ちいさな恋の詩
「あははははは!」
結局自分が納得しただけで行ってしまったヴァン。
探しても見つからないガイ。
半ば諦めたティアはマリィの部屋に来ていた。
そして二人のことを話すとこの大笑いだ。
もう何がなんだかわからない。
自分の知らないところで何が起きているというのか。
決していい気分ではないティアは口をとがらせた。
それに気づいたマリィは笑いを苦くする。
「あ、ごめんなさいね。あの二人があまりに素直な反応するもんだから」
「マリィベル様は理由をご存じなんですか?」
「ええ。知ってるもなにも、けしかけたのは私ですもの」
「……え?」
しれっと答えるマリィはティアの顔をマジマジと見つめた。
「な、なんですか?マリィ様」
先ほどのガイの時もそうだったが、あまりじろじろと見られると居心地が悪くなる。
そんなティアにマリィは悪戯っぽく笑った。
「ティア、最近綺麗になったわね。もちろん前から可愛らしかったけれど」
「え?あ、はぁ。ありがとうございます」
「あなた、恋してるでしょう」
「はぁ……………は!?」
一気に顔を真っ赤にしたティアをマリィはくすくすと笑う。
どうやら図星のようだ。
「女は恋をすると綺麗になるものよ。だからメシュティアリカももうそういう年頃なのねってことを二人に言ったのよ」
それを聞いたときの二人といったらただただぽかんと口を開けたまま固まって、それはもう面白い光景だった、とマリィは思い出して笑った。
「それで誰なのかしらねって言って今にいたるの」
二人にとって、もちろんマリィにとっても大切な存在であるティア。
その好きな人といったらもう気になるなんてものではない。
しかしマリィには心当たりがあった。
「ガイラルディアのことが好きなのね」
マリィは今までの悪戯なものではなく、優しく微笑む。
何もかも見透かされているようで、ティアはさらに赤くなった。
だがマリィ相手に誤魔化せるわけがないとわかっているティアは、「はい」と小さく頷いた。
『メシュティアリカが恋をした』
それがぐるぐるとガイの頭の中を駆け巡る。
同時に心の中がもやもやした。
これは大事な妹分がとられる気がして困惑しているだけだとガイは自分に言い聞かせた。
ずっと一緒にいたのに離れてしまうようで寂しいのだ。
それだけだ。
「ガイラルディア様!やっと見つけた!」
急に聞こえた声にガイはびくっと体を震わせた。
「マリィベル様から聞きました」
「あ、いやすまない。その、やっぱティアは大切な妹分だから、好きな人ができたら気になって、でもいざ聞こうと思ったら気まずくてさ。その、応援したいとは思ってるんだけど……」
「……私今ひどく傷つきました」
「えっなんで!?」
あなたが妹分やら応援やら言うからですよ、と言ってやりたかったが、ティアはそれを胸のうちに留めておく。
オロオロとするガイが可愛らしく思え、怒っていたのも忘れてクスッと笑った。
「勘違いしないでくださいね。私、ガイラルディア様以上に好きな人なんていませんから」
そう言ってティアはその場を後にした。
残されたガイはただ呆けたまま立ち尽くす。
「えっと、それはつまり……」
俺が好きってこと?
その考えに至ったガイは顔を真っ赤に染めた。
大切な妹と思っていたティアからの告白に、頭がついていかない。
しかし、
「こりゃ……ヴァンにしごかれる覚悟しとかないとな」
ため息をつきながらも、その顔は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
―――――
フリリクでミズル様に捧げます。
2008/03/30