人も空も暗く淀んだこの世界で、彼らはまさしく太陽のようだった。
どんなに辛い局面だったとしても、子どもたちの無邪気な笑顔を見せられると、仲間たちもつられて笑ってしまっていた。
ガウとリルムには自然とムードメーカーの役割が課せられていた。
ガウはおそらくそのことに気づいておらず、本当に自然に明るく振る舞っている。
だがリルムはどうだろう。
彼女は聡く、そして責任感の強い娘だ。
子どもにしては大人すぎる彼女にとって、それは重荷になるのではないだろうか。
皆がそれを心配していたが、どうすることもできなかった。
その重荷を軽くすることができるのはただ一人だけだったから。
太陽にカンパイ
「あーもう、こらー!ガウちゃん動くな!」
ファルコン内にある談話室に珍しくシャドウが現れたのは、相棒を探していたからだ。
しかしその相棒はお子さま組に捕まっている。
「ガウ〜!リルムまだか〜?」
「まーだ!ほら、インターセプター!ガウちゃんおさえてて!」
「わぅ!」
人間の子どもが一匹の犬におさえられ、そしてそれを少女が絵に描いている光景は、あまりにおかしなもので、でもどこか微笑ましい。
シャドウの覆面の下で笑みが零れた。
そしてハッとした。
最近の自分はどうも感情が出てきていけない。
特に少女が関わると、昔捨てたはずの想いがむくむくと沸き上がってくるのだ。
リルムが自分の娘だとわかってから、それはもう止まらなくなってきている。
人間らしさを取り戻していく自分が少し恐かった。
だがその反面、娘を愛しいと感じる心は膨らんでいる。
いつしかシャドウのリルムを見る目は父親のそれとなっていた。
それに気づいたのは同じような目でリルムを見守る老人のみ。
「できた!できたよガウちゃん見て見て!」
「ガウ〜」
リルムはガウにスケッチブックを見せた。
そこには本人そっくりの満面の笑みを浮かべたガウが描かれている。
それを見てガウはさらに笑みを深め、リルムも嬉しそうに笑った。
それは心の底からの自然な笑みで、その笑顔を引き出せるのは今ではおそらくガウだけ。
ただ仲間というだけでなく、幼いながらにも確かな想いがその小さな胸にあるから。
そのことに気づいたとき、シャドウは今更、と思いながらも少し寂しく感じた。
それでも心穏やかなのは、自分もガウのことを仲間として大切に思っているからだろうか。
「リルム、上手!オレ、そっくり!」
「えへへ、ありがと!」
頭に浮かんだ“仲間”という言葉にシャドウは苦笑し、仲良く笑いあう二人を残してその場を離れた。
シャドウは大人組が酒を嗜むためによく集まるテーブルへと向かった。
今そこにいるのは金髪の女性一人。
「楽しそうね、あの子たち」
そして貴方も。
そう言われて一部始終を見られていたらしいことに気づき、僅かに動揺した。
しかし無性に誰かに言いたかったからちょうどよかった。
「何か飲む?」
「あぁ、では同じものを」
セリスは手早くシャドウのグラスを用意し、ワインを注いだ。
「何に乾杯しましょうか」
「……あの二人の幸せに」
ぼそっと聞こえた言葉にセリスは驚き、しかしすぐに微笑んだ。
そしてグラスを傾かせる。
「じゃあ、リルムとガウの幸せを願って」
「……………」
「「乾杯」」
チンッと軽やかな音があたりに響いた。
―――――
フリリクでガウル様に捧げます。
2008/03/16