しとしとと降り続ける雨。
それを見続ける二対の瞳。
何をするでもなく、ただ空から零れ落ちる数多の水滴を見ているだけ。
遠い昔、“彼”の暗殺が実行に移された日も確か雨だった、と新八はふと思い出した。
隊のためには必要だった“彼”の死。
だが理解と感情は違うもので、あの頃の自分は板挟みにされて動けなかった。
確かに“彼”は人としてもう駄目なところまでいっていたかもしれない。
それでも嫌いになどならなかった。
「気持ち悪い」
遠慮の欠片もない言葉を篝炎は放った。
「何を笑ってるの」
「お?笑ってたか?」
口に手をやると確かに端があがっている。
それがまた可笑しくて、笑う。
「無力だったなぁって思ってよ」
要領を得ない答えに篝炎は眉をひそめたが、新八はそれ以上言う気はなかった。
視線は雨にむけられたまま。
「おまえは雨好きか?」
「別に。好きでも嫌いでもない」
「俺ァ好きだぜ。何でも洗い流してくれる気がしてよ」
新八はにゃっと笑った。
彼独特の、しかしソレには悲しみも楽しみも含まれていない。
「でも、あなたの手についた血は流れないわ」
「手厳しいねぇ」
体に染み付いた血の匂いは、一生とれることはないのだ。
2007/11/05
2008/03/02 修正