ガルディオス伯爵邸の、とある一室から光が漏れていた。

現在夜中の一時ごろ。





真夜中のふたり





今ティアはグランコクマを訪れており、わざわざ宿をとることもないだろうというガイの厚意により、ガルディオスの屋敷に泊めてもらっていた。

ふと目が覚めて、喉が渇いたと思い調理場へと向かう。
すると途中、光が漏れている部屋があった。

(ここは確か……ガイの?)

主に仕事をするための部屋で、寝室とつながっているのだとガイが言っていたのを思い出す。
少し開いている扉からこっそり中を窺うと、うんうん唸って書類とにらめっこしているガイの姿があった。

(大変そう……)

音をたてないように扉を閉めると、ティアは息を吐いた。
自分に何かできることはないか。
そう考えながら廊下を歩く。
彼の机の上にはまだ書類がたくさん積んであったように思う。
手伝いなどできはしない。むしろ足手まといになるだけだろう。

今のティアにできることは、ただ一つだけだった。





コンコン、とノックの音。

「はい?」

こんな時間に誰だろう、とガイは思ったが、一人以外考えられない。
使用人たちはすでに眠りについているころだろうし、ペールも仕事の邪魔になると思ってか、夜訪ねてくることはない。賊ならばそもそもノックなどしないだろう。
としたら、客人である彼女しかいない。
こんな時間に起きていることには驚いたけれど。

ゆっくりと遠慮がちに開く扉から、思ったとおり彼女―ティアが姿を現した。

「やぁティア。まだ起きてたのかい」

ガイが微笑んでみせると、ティアは呆れたような顔をした。

「それはこっちのセリフよ。急ぎの仕事なの?」
「あぁ、まぁね。それにまだまだ勉強しないといけないことがたくさんあるから、どっちにしろこの時間はまだ起きてるよ」
「そうなの……」

今まで使用人として生活していたのだし、ガルディオス家を立て直せる日がくるとは思っていなかったのだろうから、学ぶべきことは本当にたくさんあるに違いない。

「俺はまだかかるから、君はもう寝るといい」

ガイはにっこり笑って、寝室まで送ろうかと申し出たが、ティアはやんわり断った。

(ただでさえ忙しいんだから、少しの負担もかけたくないもの)

断ったとき、ガイが本当に残念そうな顔をしたことにティアは気づかない。

「その前に、これ……」

ティアは手に持っていたバスケットを差し出す。

「ん?」

なんだろうと受け取って中をみると、そこにはツナサンドとコーヒーの入った小さなポット。

「お夜食に、って思ったのだけれど……余計だったかしら?」
「そんなことないさ!ありがとう、助かった」

不安そうなティアの表情を見て、そして実際小腹がすいていたのもあって、ガイは咄嗟に、でも心から嬉しそうな顔で答えた。

「ゆっくりいただくよ」
「ええ」

ティアはホッと表情を和らげ、「それじゃ寝るわね」と言って扉を開けた。

「おやすみ、ティア」
「おやすみなさい、ガイ」



彼女が去った部屋で、ガイはツナサンドを一口頬張り微笑んだ。

「……うまい」







2007/09/23
2008/03/02 加筆修正

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