台所の前を通り過ぎようとして、あれっとルウは立ち止まった。
わずかに開いた扉を覗くと、色素の薄いサラサラな髪を持つ彼―イオスがいた。





こねこ





「珍しいわね、キミがここにいるなんて」

台所に立つのは専らアメルを中心とする女性陣で、たまにギブソンが甘いものを求めて来る程度。
少なくとも今までイオスが台所にいるところを、ルウは見たことがなかった。
何してるの?と聞こうと思ったら、何やら彼のほうから可愛らしい鳴き声が。

にゃ〜

「………猫?」

イオスの腕の中には小さな小さな子ども猫。
ふわふわの毛に、くるくると大きな瞳。柔らかいラインの愛らしい顔立ち。

「猫いたんだ。ルウ知らなかったな」
「ああ。僕もさっき知ったんだ。マグナはチビ助と呼んでいるようだが。野良かな」

そう言ってイオスは優しく子猫を撫でる。子猫は気持ち良さそうに目を細めた。

「かわいいね」
「ああ」


槍を自由自在に操って戦場を駆けるイオスと、厳しい世間で野良として生き抜く子猫。
そんな組み合わせがなんだかおかしくて、微笑ましくて。
ルウはフワリと笑った。







最初は微笑ましいと思って見ていたが、さすがにルウは退屈してきた。

(つまんないな……イオス、子猫にかまってばっかだし)

ルウにもかまってほしい、という欲が膨らんでいく。
イオスに甘える子猫を見てムッとした。

(くやしい……)

そう思うのと、行動に出るのとはほぼ同時だった。
ルウは「えいっ」とイオスに抱きつく。

「………!」

後ろからの急な重みと温かさにイオスは驚いた。
動悸が激しくなって、思わず自分の心臓に手をあてる。
イオスの動揺が伝わったのか、子猫は腕から逃れ、真ん丸な目で二人を見ていた。

「どうした?ルウ」
「……別に何でもないわ。ただ……」
「ただ?」
「……ルウもかまってほしかっただけよ」

イオスの心臓がキュウッと縮まる。
まさかこんな可愛いことを言ってくれるなんて。
おそらく真っ赤であろうルウの顔が見えないのは残念だが、こちらも負けず劣らずな顔をしているだろうからよかった、とイオスは思った。

少し落ち着いたところで、イオスはルウを振り返り「おいで」と腕を広げる。
ルウは迷わず、嬉しそうに飛び込んだ。
ギュッと抱き締め、互いのぬくもりを感じあう。

いつのまに来たのか、子猫はイオスの肩にのぼっていた。そして頬をペロペロと舐める。
まるでルウに嫉妬しているかのようだ。

「わっ」
「あ!」

イオスは驚き、ルウは声をあげた。

「ずるいっ!」

何が、と問おうと思ったら、不意に舐められていない方の頬に、温かく柔かい感触が。
それはルウの唇の。


ドキドキが止まらない。
ただ、子猫に嫉妬して拗ねるルウが無性に可愛くて、嬉しくて。
イオスにしては珍しく、声をあげて笑った。


「君たちはよく似てるな」

イオスがそう言うとルウは多少不服そうだったが、すぐに照れ笑った。







―――――
イオルウのルウは甘えんぼ。

2007/05/17
2010/09/26 加筆修正

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