ふと扉の向こうに人の気配を感じた。





あくむ





理由は簡単。
『目が冴えてしまったから』。
明日は午後から出発だから、午前中に買い出しをするという仕事を、とある大佐殿から仰せつかっている。
要するに、いつもの雑用。
だから早めに寝ておきたいのだが。

「眠れないな……」

眠りたいのに眠れない。
ベッドの中でただ眠気を待つだけの時間は退屈でしょうがない。
大好きな音機関をいじろうかとも思ったが、よけい眠れなくなりそうなので止めておく。

「……本でも読むかな」

たしかジェイドに借りた本があったはず、とガイはベッドから出て部屋の灯りをつけ、部屋の隅にまとめて置いてある荷物に手を伸ばす。
そこでふと感じた。扉の向こうに誰かいる。

「……………?」

確かに気配はするのだが、入ってこようとする様子はない。
不思議に思ったガイはドアノブに手をかけ、ゆっくり扉を開いた。

「きゃっ!?」
「うおっ……て、なんだティアか」

扉を開けた先にいたのは暗い廊下に一人立つティア。
暗闇に紛れていたので、本当に驚いた。

「どうしたんだ?こんな夜中に」
「えっと……その………」

何をためらっているのか。彼女が何を考えてここにいるのかさっぱりわからないガイは、ここで話すのもなんだからと部屋の中にすすめた。



「嫌な、恐い夢を、みたの……」

部屋に入ってしばらく沈黙をまもっていたティアに、どうしようかと考えを巡らせていたとき、やっと彼女の口が動く。

「夢?どんなのか、聞いてもいいかい?」

嫌な夢、というくらいだからあまり思い出したくはないだろう。
だから言いたくないなら言わなくていい、と暗に伝える。
ティアは堅かった表情を僅かに崩し、「ガイは優しいわね」と言って俯いた。

「あなたに、嫌われてしまう夢………」

その声は聞き取れないくらい小さい。
だがこの静かな部屋には大きすぎるくらいに響いた。彼女の恐怖を表すかのように。

「俺に……?」

こくんと頷き、目の前の少女は自分の体を抱くようにして微かに震えている。


抱き締めてあげたい
抱き締めて、安心させてあげたい


こんなときほど自分の厄介な体質を恨んだことはない。
目の前では愛しく思っている彼女が、自分に嫌われる夢をみて震えているのだ。


俺が慰めないで、誰がする?
女性恐怖症なんてクソくらえ!


「……!ガイ!?」

ふわりと包み込まれる感触に驚き顔をあげると、すぐ近くには彼の整った顔。
今までこんなに近くで見つめあったのは、片手で足りるほどしかない。
正直いってこんな状況に慣れていないティアは、何がなんだかわからなくなり、頭が真っ白になる。
それとは反対に顔は真っ赤に染まっているのだが。

「あの、ガ、ガイ……」
「俺は、君のことを嫌いになったりしないよ」

耳元でガイの声が甘く響く。
微かにかかる息がくすぐったい。

自分のことでいっぱいいっぱいになっていたので気づかなかったが。

「ガイ……震えてるの?」

必死に抑えているのだろう。その震えはごく僅か。

「ははっ……情けないよな、俺」

辛いだろうに、困ったような笑みをみせるガイ。
きっと自分を不安にさせないように無理してくれているんだ。
そう思うと、ティアの胸の奥できゅうっと心が鳴った。

「……ありがとう、ガイ」

辛いかもしれないけど、ちょっとの間我慢してね。
そう言ってティアはガイの背中に手をまわした。
多少びくりと体が強ばったものの、ガイは一つ深呼吸をし、抱き締める腕に力を込める。


「……愛してるよ、ティア」

だから不安にならなくていいんだ。

夢なんかにとらわれないで。
このぬくもりを疑わないで。
現つの俺の想いを信じて。


「……ええ、私も愛してるわ、ガイ」







2007/03/18
2010/09/26 加筆修正
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