あなたのことが好きです。

そう書いた手紙を、そっと机の引き出しにしまった。





引き出しの中の気持ち





ドクン、ドクンと鼓動が早まる。
ティアは今、宿屋のリビングでガイを待っていた。

チョコは持った。手紙も入れた。準備万端。
後は彼に渡すだけ。

「受け取ってくれるかしら……」

彼がチョコを受け取らないはずがないのはわかっている。
女の子を大切に扱ってくれる人だから。
ただティアが心配しているのは、『気持ち』を受け取ってくれるかどうか。
せっかくのバレンタインなのだから告白してしまえ、とアニスたちに背中をおされるまま、今にいたる。

彼は今道具等を揃えに出ている。
もう少ししたら戻ってくるはずだ。

ガチャッ、と宿の扉が開いた。
咄嗟にチョコを後ろに隠し、ティアの体に緊張が走る。
いよいよ告白の時だ。

「あれ、ティア。どうしたんだ、こんなところで」
「あ、ガイ、あの……」

決死の思いでチョコを渡そうとした。が。

「ガイ……それ……」
「ああ、これ?町の女の子たちに貰ってね。いやぁ参ったよ。好意は嬉しいんだけどね」
「そ、そう」

彼の手には道具屋の袋とは別に、可愛くラッピングされたチョコが山ほど入った紙袋。
しかもさっきの言い方からすると告白した子たちはふられたようだ。
ティアは急に自信がなくなり、ガイにわからないように手紙だけを抜いた。

「それで、君は何をしてるんだい?」
「私?は、あの、これ……」
「ん?」

差し出したのは手紙の抜かれたチョコレート。

「勘違いしないでね!?バレンタインだから、いつもお世話になってるから、それだけだから!」

つい強がって、こんなことを口走ってしまった。
他の子がどうであろうと、気持ちを伝えてしまえばよかったのに。
もう今更言い直すことなどできない。

「ありがとう」

ガイは優しい笑顔を浮かべて言った。

「君からのチョコが一番嬉しいよ」

ああ、なんて罪な人。







あれから一ヵ月。
グランコクマに寄った際、同じ宿屋に泊まることになった。

「え、ガイ、その部屋なの?」

ティアが驚きの声をあげたのは、みんなの部屋割りが決まったときだった。
ティアはナタリアと同室、ガイはその隣となった。前回ティアが泊まっていた部屋だ。

「そうだけど。どうかしたのか?」
「い、いえ。何でもないの」

少し挙動が不振だったものの、「そうかい?」と特に気にしない様子でガイは部屋に入っていった。

(一ヵ月もたってるんだし、さすがにもうないわよね……)

彼女が一ヵ月前に机の引き出しに残した忘れ物。
すでに捨てられている可能性が高いし、ここに泊まるのは今晩のみ。見つかることはないだろう。
ティアは気にしないことにし、体を休めることにした。





夕食も済まし、各自思い思いの時間を過ごすことになった。
静かに本でも読もうかと思い、ティアが部屋に戻ると、しばらくしてノックの音が聞こえた。

「はい?」
「ティア?ちょっといいかな」

油断していた。
まさかガイが部屋を訪ねてくるなんて思いもしなかった。

「ど、どうぞ!」

つい声が裏返ってしまう。

「どうしたの?」
「いやなに、今日はホワイトデーだろう?お返しをしようと思ってね」

忘れていたわけではない。
彼は律儀なのでお返しを用意してくれることは想像できていた。
でもやはり驚いてしまう。そして嬉しい。
顔がにやけてしまうのがわかる。

「はい、これ」

差し出されたのは可愛らしい袋に入った飴玉。

「かわいい……」
「気に入ってくれたかな」
「え、えぇ」

可愛いものを目の前にして、さらにそれがガイから貰ったものと思うと心がぽかぽかしてくる。

「それと、これ」

ガイはさらに真新しい白い封筒を差し出した。

「これは……?」
「それ、俺の気持ち」
「?」

不思議に首を傾げながら開けてみる。


『あなたのことが好きです。』


ティアは目を疑った。
これは、封筒は違うものの、自分が彼に宛てた……そして渡しそびれて引き出しにしまったままにしてしまった手紙。
見つけられていたなんて。
それに……

「ガイの、気持ち?」
「ああ。迷惑かな?」

この手紙はティアがガイに宛てたものだと知っているだろうに、そんなことを言うとは。

「……意地悪ね」
「ははっ、まぁね」

ガイは心なしか恥ずかしそうに笑う。
ティアはそんな彼を見、赤くなる顔を手紙で隠した。
隠したはいいものの、目の前には『好き』の文字。
自分で書いたとはいえ、これが彼の気持ちだと思うと顔に熱が集中する。


「ティア」

優しいガイの声。

「俺は君が好きだよ」

ドクンと胸が高鳴る。

「君は?」

激しい動悸。

「……わかってるでしょう?」
「君の声で聞きたいんだよ」



机の引き出しにしまった想いは、彼によって開け放された。







2007/02/10
2010/09/26 加筆修正

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