彼女のぬくもりと比べたら、炎の熱などでは全然温まらないと言ったら、過言だろうか。





ぬくもり





雪が辺りを包み、冷たい空気が支配する。
もうすでに陽は沈みかかっているのでと、野宿を決め込んだのは数時間前。
体力の消費を抑えるため、早めに夕食を済まし、もう寝てしまおうかというころ。


(眠れない……)

この寒さだ。すぐに眠れと言うほうが難しいもの。
どうやら他の仲間たちも同じようで、焚き火を囲み談笑している。
ヴェイグはその輪から少し離れたところに座っていた。
わいわいと楽しめる仲間が羨ましいと思い、しかし自分には簡単に輪に入ることなどできはしない。
こんな時、自分の性格が少し嫌になる。


一人ぼけっとしていると、遠くからマオが「お湯沸いたヨー」と誰かに告げているのが聞こえた。
「わかった」と返事するその声は、意外と近くから聞こえたので驚いて振り返ると、そこにはアニーがいた。

「ヴェイグさん、寒いのにこんなところいないでお茶にしませんか?」

そう言ってヴェイグの側まで歩いてくるアニー。
その際生まれる風に、微かに彼の好きな匂いが混ざっていることに気づいた。

「桃の匂いがする……?」

そうヴェイグが呟くと、アニーは少し驚いたようで、手を口にあてた。
そして少し笑って、

「桃の紅茶の封を開けたんです。匂いが少し移っちゃたんですね」

よくわかりましたね、さすがヴェイグさんです、とよくわからない褒め言葉を口にし、アニーはヴェイグの手を取った。
火にあたっていなかったヴェイグの手はひどく冷えており、わずかに震えている。

「もう、寒いなら無理しないでください。ほら、行きましょう」

アニーは頬を少し膨らませ怒ったが、すぐに微笑みにかわる。
想いを寄せている少女に手を握られ、大好きな微笑みがすぐ側にあり、その彼女からは桃の良い香りがして、それで我慢できるほど自分は大人ではない。
ヴェイグはアニーの手を握り返し、自分の方へと引っ張った。

「きゃっ!?」

アニーの小さな可愛い悲鳴が聞こえた時には、彼女はすでにヴェイグの腕の中。
さっきまで寒い寒いと思っていたのに、今はとても温かい。
一瞬の欲望に負け衝動による行為だが、後悔などしていない。
彼女の体温が伝わってくる。

「アニーは温かいんだな」
「……さっきまで火にあたってましたから」

ヴェイグさんの体が冷たすぎるんです、と呟く彼女の腕が自分の背中に回され、嬉しさがこみあげてくる。
抱き締める腕に力をこめ、こうしていれば火にあたらなくても温かいな、などと思っていたが。


「アニー!ヴェイグー!お茶冷めちゃうヨー!」


というマオの声に反応したアニーは、顔をこれ以上ないというほど真っ赤にし、ヴェイグもマオの声に驚いたので、お互いぱっと離れた。

「今行くー!ヴェイグさんも早く来て温まってくださいね」
「……ああ」

赤くなった顔を冷ますように手の甲を頬にあてながら、アニーはみんなの元に戻っていった。


(マオめ……)

マオに決して悪気がないのはわかっているのだが、この余熱が急に冷めていくのを感じると少年を恨まずにいられない。
大人気ないとはわかっているが、アニーを取られた鬱憤を晴らさずにはおれまい。



数分後、マオの分のお茶がカップごと凍ったという。







2006/07/12
2010/09/26 加筆修正

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