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「裏切られた気持ちはどう?」

「最悪ですね」



昨日の“宣戦布告”以来、私には監視はついた。部室の外には交代で同輩がこちらの様子を伺っている。ハッキリ言うがバレバレだ。私と目が合ったときに投げキッスをしてきた奴には後で制裁を加えなければいけない。

昨日部室付近で待機していた同輩達は私達動揺に先輩に喧嘩を売りに行った。もちろん中谷先輩もいる前で。


「それにしたって予想外。二年生全員が敵になっちゃうなんて。」

「まぁ付き合いが長いもので」


実際、幼稚園から一緒の人もいるので私の周りは幼馴染だらけ。長太郎と樺地もその一人。ちなみに日吉は小学校高学年からのお付き合いだ。たまたま委員会が一緒だった。幼稚園の頃も何度かその姿は見ていたけど怖くて近寄れなかった思い出がある。その話をするとあからさまに日吉が嫌な顔をするのであまりしないようにしている。


「良いけどね。景吾達がいれば私は安全だし。それに証拠も残らないようにやってるし」

「どうでしょうかね。虫の知らせで誰か飛んでくるかもしれませんよ」

「ふふっ、ねえ気付いてる?さっきから私の監視が誰もいないってことに」


やっぱりばれてた。そりゃバレるって、あれだけわかりやすくやってれば。まあそれが狙いってこともあるんだろうけどさ。そんな事より、監視が誰もいないってどういうことだ。


「…外周……!!」

「正解。二年生は皆外周に行っちゃったよ?どうしようか、もう誰も苗字さんを守れないわね」


中谷先輩が自分で自分を叩き、部室から出ていった。これは不味い、非常にまずい。日吉達にあんな約束をさせた手前私もケガはできない。今のうちに逃げよう。


「お前も懲りねえようだな名前。逃げようなんざ甘いんだよ」

「っ!!」


案外近くにいたようだ。私が逃げようと部室を出ると真正面には跡部先輩。体を後ろに押されて私はまた部室へ戻ることになった。跡部先輩の後ろでは忍足先輩が中谷先輩の肩を抱いている。


「ええ加減にせえよ…」

「クソクソまじありえねぇ…!!」

「俺達も女子に手を出すのは嫌なんだけどね、口で言っただけじゃ君には伝わらないみあたいだから仕方ないね」

「口で言ってもらったこともありませんが。」


跡部先輩が大きく手を振り上げた。


「………っ!!!」

「何だ!!?」


その手が私に当たることはなく、その代りにテニスボールが私の横に転がってきた。全員が部室の外を見る。その視線の先には


「し、宍戸先輩…?」

「何してんだよ宍戸!!」

「悪い。コントロールミスった」


宍戸先輩はそう言ってコートの方へ戻っていった。岳人先輩とジロー先輩が追いかけていったけれど、これは助けてくれたのか?宍戸先輩は去り際に私を見てバツの悪そうな顔をした。


「日吉だけじゃなくて宍戸まで誑かしたんや」

「宍戸自主練行っちまった…」

「止めたけどダメだったCー…。宍戸に一体何したんだよ!俺達の事騙して何が楽しいんだよ名前!!」


宍戸先輩にも同じようなことを前に言われた。騙してなんかない、楽しくなんかない。そんな事は今言ってもまったく効果がないことは良く分かっているので私は何も言わなかった。


「紗江に、宍戸に日吉…。覚悟は出来てるんだろうな」


全員がじりじりと寄ってくる。四面楚歌だ、もうどうしようもない。そう思って目を瞑っていると先輩達のうめき声が聞こえた。


「させませんよ。言ったでしょう、苗字に手を出したら許さないって。口で言ってもわからないのは皆さんも同じようですね。」

「クソッ…離せ日吉…!!!」

「けがないか苗字」

「うん、大丈夫ありがとう」

「良かった名前ちゃん…!!あぁ〜心臓止まるかと思ったよー」

「ウス」

「ごめん」

「間に合って良かったですわ本当に」

「うん、そうだね…………」

「?如何しましたか苗字さん、少しお顔の色が宜しくないようですが」

「………何で西園寺さんがここにいるんですか…」

「西園寺さんは伝令係なんだよ」

「聞いてねー知らねー」


また蚊帳の外!!何でそんなにハブりたがるんだ私を!!!


「てめえ日吉…!!部外者入れていいと思ってんのかよ…!!」

「…いつまでこのくだらない茶番を続けるつもりですか。いい加減気付いてくださいよ真実に。」

「真実、だと…」

「冷静に周りを見ればすぐに分かりますよ。今、あなたの見えないところでいろんなことが起きている。あなたのすぐ傍でも、もうすでに変化が起こり始めている。それに気づかないなんて……………堕ちたな、跡部。下剋上は達成されたも同然だ」

「貴様ァ!!!」


跡部先輩が日吉の拘束を振り払って殴りかかるが、その拳はあっさりといとも簡単に日吉が止めてしまった。跡部先輩が驚きで目を見開いている。


「何故……っ」

「今までだったらこんな簡単にあなたの拳は受け止められなかったでしょうね。でも今のあなたなら俺はいくらでも勝てる自信があります。あなたが嘘をついているからですよ。あなたが本当に守りたいものは中谷紗江ではないでしょう?彼女を代わりにしたっていつまでたっても満たされませんよ。あなたの本当に守りたいものは何ですか」

「俺が…俺が守るのは…紗江、…だ」

「………そうですか。本当にそう思うならそれでも構いませんよ。ただ俺は…俺は苗字を守りたい。だからあなたよりも強くなれる。」







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